『剣遊記 番外編Y』 第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。 (8) やっとの思いで地上まで逃げ延びた時刻は、たぶん正午を過ぎたばかりの頃のようだった。
「も、もうよかばい……⛑」
疲れた律子は地面に両手をつき、荒い息を繰り返した。その右横で秋恵も、ボールになっている自分の姿を、みるみると元の人型に戻らせていた。これをくわしく描写をすれば、玉の形からニュ〜〜っと四方に長いモノが伸び、両手両足に変形。さらに上の部分から黒い毛――頭髪が生え、そこが元の頭と顔になる。それから五体満足の少女の姿になるまで、あまり長い時間を必要とはしなかった。
ただし、誰もがよくわかる問題が発生。無論律子は、一番にその問題を指摘してやった。
「なんか、着るモンがいるばいねぇ☹ そんまんまじゃ街に出られんばい☢」
「きゃあーーっ! 見らんとってぇーーっ!」
元の人の体型に戻った秋恵は、文字どおり一糸もまとわず、桃色の綺麗な素肌を、白日の下に晒していた。なにしろ冒険開始のときに着ていた服は全部、野獣どもからボロボロにされ、さらに変身の際、完全に捨て去っているのだから。
もちろん律子は同性なので、あまり大きな問題はなし。今まで一行も書いてはいなかったのだけど、いっしょにお風呂に入った仲でもある。だから大問題な件は、ただひとり異性である、徹哉の存在。
「やけんさるかんで、あっちば向きっちたいがいぶりに言いよろうもぉ!」
秋恵がそんな唯一の男子――徹哉相手にわめきながら、大慌てで地面にしゃがみ込んだ。だけどもこの場には、身を隠せる布切れどころか、周囲には木の葉っぱ一枚すら落ちていなかった。
近くの森までは、相当な距離があるようだし。
それでもこのネクタイ青年ときたら、自分の目の前で真っ裸の少女が恥ずかしがっているというのに、その光景を完ぺきに無視。相も変わらずの淡々とした口調と表情のまま。律子相手にのたまうだけだった。
「地上ニ出ラレタトイッテモ、マダマダ安心ハ禁物ナンダナヤデェ。まみーガ追ッテコナイウチニ、早クコノ城カラ逃ゲタホウガイイト、ボクハ提案スルンダナ」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |