『剣遊記 番外編Y』 第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。 (7) この一方で、律子たちのほうである。
「きゃっ☆ なんかようわからんとばってん、逃げるとやったら今が絶好のチャンスばい! 秋恵ちゃんと徹哉くんも急いでぇ!」
マミーが杭巣派一味を、勝手に追い駆けてくれたわけ。でもってこの隙にとばかり、とにかく地上への階段を、律子たちは全力で駆け上がった(またまた書くけど、秋恵は転がり上がる)。
実際連中が騒いでマミーを誘う結果になった僥倖で、律子たちは悠々と脱出する余裕ができたのだ。
ようやく明るい地上に出られて、律子は息を弾ませながら、城の出入り口に振り返って言った。
「あいつらには気の毒ばってん、同情なんかしちゃらんとやけ☠ マミーが出らんかったら、わたしらがあいつらにやられるとこやったんやけねぇ☢」
これもある種、律子の『自己正当化』と『開き直り』。だけど秋恵も、先輩の考えに同調している模様。ボール姿のままでバンバンと、丸い体型をそれこそ手毬のように地面で弾ませていた。
要するに今はしゃべれないので、全身を使って賛成の意を表しているわけであろう。だけどなぜかここで、徹哉がよけいな口をはさんでくれた。
「デモボクハ、油断ハイケナイト予測スルンダナモシ」
「油断? 油断ってなんね!」
これに律子は、ほっぺたをふくらませる気分で噛みついてやった。しかし徹哉は、やはりのポーカーフェイスで答えるのみだった。
「ハイ、ボクノ頭脳こんぴゅーたーデコノ先ノ展開ノしみゅれーしょんヲ行ナエバ、アノ包帯オ化ケハ奥ニ逃ゲタ人タチヲヤガテ見失ッテ、ソノアトドウシテイイノカワカラナイノデ、地上ニ出テクルト考エラレルンダナデオマスンヤ。ソウナルト危ナイノハボクタチナンダナ」
「ば、馬鹿んこつ言わんとき!」
徹哉の『予測』とやらは、とてもヤバい話の展開だった。なので律子は、口では一応、思いっきりに否定してやった。だがそれでも、律子の背中をなにか冷たいモノが、キューーンと駆け抜けていった。
まるでカキ氷の一気食いを実行したときみたいに。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |