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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (4)

 そんな彼らをずっと背後にして、律子たちの眼前には、地上の光が近づいていた。

 

 今朝早く城の探索に入って、それほど長い時間がかかっているわけではないので、時刻はおよそ、正午前と言ったところか。

 

「もうすぐばい! 外に出て太陽の下に出られたら、もうわたしん天下なんやけぇ✌」

 

 『わたしん天下☺』とはつまり、太陽光線によって薔薇のパワーを全開とし、悪いやつらをボコボコに叩きのめす正義の行動(自己申告)。そんな形勢逆転のチャンスを目の前にして、昇りの階段を駆け上がる律子の鼻息も、今やかなり荒い状態になっていた。

 

 ところで律子たちの駆け上がっている(秋恵は転がり上がるが正しい。何回でも繰り返す)階段には、途中にいくつかの小さな踊り場があった。そこはドアらしい物がなにもない、ただの平凡な空間となっていた。だが、その踊り場でいきなり徹哉が立ち止り、これまた奇妙なセリフをつぶやいてくれた。

 

「アレ? コノ壁ノ向コウニ誰カイルンダナッチャ」

 

 もちろん律子は、そんな徹哉の戯言{たわごと}など、真面目に相手をする気はなかった。

 

「誰もおらんばい! ただのレンガの壁なんやけ!」

 

 一撃でネクタイ青年の疑問を跳ね付け、続いてそのまま走り抜けようとした。ところが、次の瞬間だった。律子の言うところであるレンガ造りの石壁が、突然ドッガアアアアアアァァァァァァン!――と、大きな音を立てて崩れ落ちたのだ。

 

しかもそこからなんと、得体の知れない人物までもが登場した。

 

「えっ? 包帯男?」

 

 盗賊女猛者――律子も、思わず瞳を見張ったほどの大珍事。いきなり壊れた壁の奥から、全身包帯でグルグル巻きの怪人が出現したのだ。

 

 ただし体に巻いている包帯は、全体が思いっきりに汚れていた。恐らく初めは白一色であったろう包帯が、完全に茶色じみた色合いににじんでいる。

 

 つまりこの怪人は、相当に古い昔から、包帯を体中に巻いていたわけ。

 

 無論、盗賊の経歴が長い律子にとって、突然現われた包帯怪人に対し、それなりの知識をきちんと持ち合わせていた。

 

 その知識が、律子に大きな悲鳴を上げさせた。

 

「な、なしてこげなとこにマミー{ミイラ男}が出てくるとねぇーーっ!」


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