前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (3)

 過去の問題は脇に置く。それよりも律子たちの逃走スピードの、これまた速いこと速いこと。

 

 通路から地上行きの階段へ飛び込み、途中に散らばっている瓦礫や倒れた柱などの間を飛び越えて走り抜け、堀のように深い建物の割れ目も難なく突破するほどの大ジャンプ! さらに盗賊の練習用に配置されている仕掛けやトラップの数々――足元に張られた縄や、壁から飛び出す槍の束(ケガをしないように先が丸められている)を三人そろってクリアしながら、ひたすらに地上を目指しての全力疾走。

 

 もちろん秋恵はボールのまま、ポンポンと跳ねながらでの格好で。

 

 これを真面目な観賞眼で顧みれば、滑稽以外の何者でもない光景。むしろ三人を追い駆ける悪党集団のほうが、いいツラの皮になっていた。

 

「ちっくしょう! こげなボロ城ん中にこげな罠ば作ったやつっち、いったい誰なんねぇ!」

 

 炉箆裸が嘆くとおり、数々のトラップや仕掛けに、彼ら自身が引っ掛かりまくっていたのだ。

 

 例を挙げれば、ある者は初歩的な落とし穴に見事落っこち、またある者は上からバラバラと、小石の洗礼を浴びる始末。キリがないのでこれ以上の説明を省くが、要するに杭巣派一味は頭に血が昇りきっているばかりに、冷静な判断力を失っている状況にあるわけ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system