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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (2)

 そのような、大いに無駄とも言えるやり取りが、繰り返されていた間だった。

 

「ば、馬っ鹿野郎ぉ! ボサッち見とらんで、早よあいつらば追うっちゃよぉ!」

 

 別に親切で逃げる時間を与えていたわけではない。ただ杭巣派や炉箆裸たちは、つい律子と徹哉の漫才にポカンと見とれ、結果としてふたり――いやいや変身している秋恵も加えて三人を、みすみす地上へと逃がす破目になっていた。

 

「くぉらぁーーっ! 待たんけぇーーっ!」

 

 杭巣派が吠えた。ここで律子たちを逃がしたら、それこそ自分たちの悪事が露呈される事態となるのだ。

 

「甘めえ顔すりゃツケあがりやがってぇ! 俺はガキんころから、てめえのそげな性格がでたん大っ嫌いやったっちゃよぉ!」

 

 初めから甘い顔などしていなかったくせに、炉箆裸の勝手な言い草が、自分自身の本音を剥き出しにしていた。

 

「俺が悪ガキやっちゅうて、ガキんときから色メガネで見てからにぃ! 人ば不良やと思って差別すんやなかぁ!」

 

 このあまりにも本末転倒的な絶叫を耳にして、先頭を走りながらで律子は反撃をしてやった。

 

「なんねぇ! あんたら自分で好きで不良ばやりよったんでしょうがぁ! それなんに世の中に甘えきったこつ言うもんやなかばぁい!」


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