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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (26)

「に、逃げるっちゃあーーっ!」

 

 先にマミーで泡を喰ったときと同様、杭巣派一味があっと言う間に、戦意とスケベ欲を喪失。今度も慌てて、クモの子を散らすようにして逃走に入った。

 

「秋恵ちゃん! 逃がしちゃ駄目ばい!」

 

 そんな彼らを憐れむ気など、さらさらない律子である。薔薇の花から声を大にして叫べば、ピンクのボール――秋恵がこれに応じて、自分でピョンピョンと跳ね回りながら、なんと二個の球体に、プチッと自己分裂をしたではないか。

 

 いったいどのような体の構造なのか、まるで皆目不明。とにかく秋恵も徹哉と同じで(違うと思うぞ👐)、自分の体を自由にバラバラにできるようなのだ。もっとも秋恵の場合は変身後、人の言葉がしゃべれなくなるので、一切無言のままで、さらなる球体の分裂を繰り返した。

 

 これはこれで、遥かに不思議中の不思議な現象であるけれど。

 

「な、なんや、こいつも化けモンなんけぇーーっ!」

 

 炉箆裸がまたも驚愕の悲鳴を上げたとおり。秋恵の体だったピンクボールが、今や無数のピンポンボールとなり、それら一個一個が自在に跳ね回っていた。しかもなお、逃げようとしている連中を、物の見事に翻弄もしていた。

 

 事ここまで至れば、あとはもう定番の大暴れである。

 

 巨大薔薇の律子が長いツルで男どもを振り回し、秋恵は何十個ものピンポンボールになって、同じく男どもの顔や体のあちこちに、パチンコ玉のような痛い体当たりをブチかます。

 

 この奇想天外かつ愉快ともいえる現場の状況を、地面に転がったままで眺めている徹哉の生首(?)が、これまたおもしろおかしく実況中継していた。

 

「イヤハヤ、コレハマタ凄イ事態ノ展開ニナッタモンナンダナ。マサニ律子サンハ薔薇薔薇デ、秋恵サンモばらばら……ソシテカク言ウボクモボクデばらばらナンダナ。大ノ男タチガ束ニナッテカカッテモ、モハヤ絶対ニ律子サント秋恵サンノ連合ニハ勝テナイト、ボクハ考察スルンダナ。少シ意味が違ッテルノハ承知ノ上ナンダケドナ。トニカク男ドモヲぎったぎたノこてんぱんナンダナ。コレヲ日明博士ニ報告シタラ、キットマタ大研究ノヤリガイガアルッテ言ッテ、大イニ大喜ビスルト考エルンダナ。ツイデニボクハ『老兵ハ死ナズ、タダ消エ去ルノミ』ナンダナ。意味ハ別ニ考慮シナクテモイインダナ」


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