『剣遊記 番外編Y』 第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。 (25) しかもよく見れば、緑色をした長いモノの一本一本に何枚もの葉っぱが付いて、さらに恐ろしい話。すでに恒例ではあるが、尖ったトゲのおまけ付きとなっていた。
「な、なんやぁーーっ! おめえも亜人間やったとかぁーーっ!」
律子の急な変貌を目の当たりにした炉箆裸が叫んだ。その彼に向け律子は、逆立てている緑の髪に赤や黄色い薔薇の花を満開とさせ、大きな声での宣戦布告をしてやった。
「まあ、昔はふつうの人間やったばってん、事情はいずれ、刑務所に面会ば行ったときに教えちゃるばい☻ そげんこつで、今は覚悟ばしんしゃーーい!」
さらにこれはサービスではないが、着ている服がたちまちバリバリと破れまくり、気がつけば女盗賊だったモノは人の姿を失い、巨大なる薔薇の大木と化していた。
その巨大なる薔薇の大木は、全体に無数の小薔薇を飾っている中、一番高い所(大体二・五メートルくらい)に、ひと際大きな赤い花を咲かせていた。
「ひ、ひえーーっ! ま、また怪物やぁーーっ!」
律子の変身を見た冬父可が、叫んではいけないセリフを叫んだ。当然これに、巨大薔薇――律子の過剰な反応が返ってきた。
「なんば言いよっとねぇーーっ!!!」
巨大な赤い薔薇の花が、律子の声音で怒声を上げた。それからヒュルルと伸ばした緑のツルが、叫んだ奴――冬父可の右足に絡んで、見事空中逆さ吊りで持ち上げた。
本来ならば、まさに怪物と言える、この姿である。決して律子に文句など言えないはずなのだが。
「あひぃーーっ!」
冬父可の断末魔が、周辺一帯に響き渡った。
ここで再び、くわしい描写を繰り返そう。巨大薔薇となった律子の全体像は、てっぺんに先ほど申したとおり、大きくて赤い薔薇を咲かせていた。さらにその周囲には、色とりどりの小薔薇を配置した樹木の姿となっていた。また周辺には、先に噴出をさせた何十本もの植物のツル(トゲ付き)が、それこそ大蛇のようにユラユラと蠢き回っているのだ。
このような大怪物(律子ちゃん、ごめん!)を目の前にして、いったいどこの何様が、度胆を抜かずにいられようか。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |