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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (20)

 乾いて血の一滴も出ないその体を、包帯ごと袈裟懸けにバッサリと斬られたわけ。悲鳴こそ上げないものの、マミーはまさしく断末魔の様相。

 

「やったぁーーっ!☆ やっぱ徹哉くん凄かぁーーっ♡♡」

 

 すでに能天気の域にまで達しているとしか思えない秋恵は、それこそもう手放しの喜びよう。自分が先輩(律子)から借りて着ている、シャツ一枚だけの真っ裸も忘れている感じ。この場でキャンキャンと跳ね回った。

 

「ちょっとぉ……秋恵ちゃん、徹哉くんに見られとうばい☢」

 

 律子は見かねて忠告をしたのだが、全然効き目はなし。それどころか――であった。

 

「ボ、ボ、ボクナラ平気ナンダナ。たったたらりらナンダナ。ソレヨリ……ナンダナ」

 

 当の徹哉の生首(?)が、今も律子の手の中にあるまま、真面目に語ってくれた。これだから後輩のはしゃぎっぷりが、止まるはずもなかった。だけどその件は、この際ほったらかし。事態はまだまだ、安心を許さないご様子。その理由は、徹哉の次のセリフにあった。

 

「アノまみーニハ、『トドメ』ト言ウノガ効カナイヨウナンダナ。ドコマデヤッテモ倒レナインダナ。実ニイイ仕事シテンダナ」

 

 無論律子も、その事実を現実として受け止めていた。

 

「さすがは不死のアンデッド……マミーばいねぇ☠ 頭ば潰されて体ば真っ二つにされたかて、いっちょん動きば止めんとやけ♋」

 

 思わず真剣な気持ちでつぶやくとおり、満身創痍のマミーは、いまだおのれの敗北を悟ってはいなかった。二本の足で立っている状態がやっとの有様でも、敵――頭の無いボディだけの徹哉を追い求めていた。

 

 戦意だけは永久に失わない――と言う執念なのだろうか。

 

「もう充分ばい⛔ マミーば永遠の眠りにつかせてあげましょ⛴」

 

 律子も今では、怪物に対する恐怖感を忘れ去っていた。むしろ憐れみにも似た心境で、自分の左小脇にかかえている徹哉の生首(?)にささやきかけた。

 

「徹哉くんの体っち、まだまだ秘密の隠し道具がありそうやけ、ついでに火ぃ出すこともできるんとちゃう? マミーの弱点っち乾燥ばした体が燃えやすかってことやけ、あいつん体に火ば点けて、今度こそ静かな眠りにつかせてあげて☘」

 

「アレヲ燃ヤスノカナ。直感トいまじねーしょんナンダナ」

 

 律子の哀願は、いつになく大真面目なもの。だけど彼女に応える立場の徹哉は、やや難儀そうな口振りでいた。

 

「確カニ火炎攻撃ノ武器モ、ボクノぼでぃニ備ワッテイルンダナ。おー、もーれつナンダナ。ダケドコレヲヤルト……」

 

「やるとどげんなるっち言うとね?♨」

 

 律子はだんだんと、イラついた気分になってきた。無論そのような感情は、徹哉には一切通用しなかった。

 

「ハイ、ソレハボク自身ノぼでぃニ大キナだめーじガアルンダナ。アトデ本社ノ工場ニ持ッテイッテ、本格的ナ修理ガ必要ニナルンダナ、ナンヤデェ」

 

 なんだか言い訳がましい徹哉の言い分で、律子はついにカチンとなった。

 

「修理かなんかよう知らんとばってん、つべこべ言わんと、早よわたしん言うとおりにしんしゃいよ!」


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