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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (19)

 このような超奇怪極まる状況下にあっても、まだまだ徹哉とマミーの戦いは続行中となっていた。それも両者ともに、頭を失った胴体と両手両足だけでの取っ組み合い――とは言え、経過は明らかに、徹哉のほうが優勢なようだった。

 

「収納さーべるヲ出スンダナ。コレコソハはんどぱわーナンダナ」

 

 律子の腕にかかえられている徹哉の生首が叫ぶ(?)と、これまた驚いた事態。今度は彼の左手の手首が、カパッと瓶の蓋みたいに外れてぶら下がりの状態となり、開いた所から飛び道具――短めの剣がシャキッと突き出る、物の見事な奇天烈ぶり。

 

「ソレ、行クンダナ」

 

 生首からの命令を受け(?)、胴体がその左手剣を振るい、バッサバッサとマミーの体や包帯を、それこそ見事ズタズタに切り裂いた。これではいったい、どちらが本当の怪物――あるいは悪役なのか、全然わからなくなってきた。

 

「いじくそカッコええばぁーーい! 徹哉くぅーん♡」

 

 マミーに対する恐怖感など、もはや脳内のどこにも残っていない感じ。秋恵が盛んに黄色い声援を、徹哉の胴体に贈っていた。これに律子は、冷やかし半分と皮肉半分で突っ込んでやった。

 

「なんかずいぶん、徹哉くんば応援しよんやない? なんか気でも変わったとね♐」

 

 だけど秋恵は、明るさ全開。裏表まったくなしのような返答で応じてくれた。

 

「はい☆ しぇんかて徹哉くん、あたしとおんなじホムンクルスってことがわかったんやもん♡☀」

 

 徹哉の生首(?)が、このとき小さな声でつぶやいた。

 

「ボクハあんどろいど……ソシテ秋恵サンハほむんくるす……大キナ違イガアルヨウニ考エラレルンダケドナ。困ッテシマッテわんわんわわんナンダナ」

 

 頭部はこのように悩んでいた。その一方で、離れた位置である首なし同士の対決は、大方決着へと向かっているようだった。それは大上段に左手剣を構えた徹哉の首なし胴体が、それを大きく、ザクッと打ち下ろしたからだ。

 

 こうなると、素手のマミーなど、まさにひとたまりもなかった。


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