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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (1)

「カ弱イ女ノ人ヲイジメル悪イヤツラハズラ、コノボクガ絶対ニ許サナインダナ。天ニ代ワッテオ仕置キスルンダナ」

 

「ちょ、ちょっとぉ! 徹哉くんったら、自分がなんば言いよっとか、わかっとうとぉ!?」

 

 『しすてむノ修復』。これがいったいなにを意味する話なのか。それこそ理解と納得の範疇を完全に逸脱している、聞いた経験のない単語の登場であった。

 

 それでも一応、復活は復活。本来ならば大いに喜ぶべきときに、再び訳のわからない迷発言を始めた徹哉の奇妙奇天烈ぶり。律子はもう、頭の中がテンヤワンヤの有様となった。

 

「馬鹿んこつ言{ゆ}うとらんで、今は逃げるが肝心なんばい! やけん早よわたしについてきんしゃいって!」

 

 なんとか我を取り戻し、理性(?)で訴える律子。これに対し、徹哉は修復とやらを果たしても、やはり無表情無感情😑な、ポーカーフェイスのままでいた。しかもこれで、カッコをつけているつもりらしかった。

 

「律子サン、男トイウ生物ニハ、カ弱イ婦女子ヲ助ケルタメニ、断ジテ敵ニ背中ヲ見セテハイケナイぷろぐらむガせってぃんぐサレテイルンゾナモシナンダナ。ソシテソレハ、ボクノ機能ニモ組ミ込マレテアルンダナ」

 

 本人だけが気取っている感じで、ぬけぬけとのたまうのみ。おまけに表情の変化がまるで絶無なだけに、セリフの中に説得力という要素が、まったくと言って良いほどに感じられなかった。

 

 このてんで訳のわからない話の展開に、イライラ感が溜まったのであろう。ボール状の姿である秋恵が、そのままの丸いかたちでバンバンバンと、本当に手毬のような自己跳躍を繰り返した。彼女の目(だからどこにあるのかわからないって☠)の前でわがままをほざいているとしか思えない徹哉の振る舞いに、変身したままで頭にきたようだ。

 

「ほらぁ、かなり変わっとうけど、これ秋恵ちゃんなんばい♐ そん秋恵ちゃんかて腹かいとうやない☞ やけんあんたも早よ、いっしょに逃げるったい!」

 

 後輩の意を汲んだ律子は、自力で手毬のように跳ねているピンクのボールを、右手で指差して叫んだ。するとここまできてようやく、徹哉がうなずきの仕草をしてくれた。ついでに言えば、ボールになっている秋恵の存在に、徹哉は今になって気づいたはずである。しかし秋恵の変身に対する徹哉の反応は、まさに他人事以上の無関心ぶりで流してくれた。

 

「ナルホド秋恵チャンモ変ワッタモンナンダナ。ソレヨリ、ソ、ソウダッタンダナ。ボクタチノ三原則トシテ、『アナタタチ人間ヲ絶対ニ傷付ケナイ』、『アナタタチ人間ニハ絶対逆ラワナイ』、ソシテ『自分デ自分ヲ傷付ケナイ』ッテ言ウ大原則ガアッタンダナヤンケ。危ウクソノ原則ヲ忘レルトコダッタンダナ」

 

「なんね、そん『さんげんそく』っち?」

 

 秋恵の変身の話は、もうあきらめた。それより言っている意味は、相変わらずの『さっぱり?』だった。しかし今は、その疑問を追及するよりも、徹哉が言うとおりにしてくれるほうが、遥かに大事だと言えた。

 

「そ、そげんことよぉ! とにかく早よこっから逃げるほうは先決なんやけぇ! やけん徹哉くんも秋恵ちゃんも、わたしについて来るったい!」

 

 大慌てで律子は先頭に立ち、徹哉の右手を無理矢理自分の左手で引っ張って、地上へ向かう階段を駆け上がった。このふたりのあとから、ボール姿の秋恵も自分の力で跳躍を繰り返しながら、やはり階段を転がり上がるようにして弾んでいた。

 

 ちなみに律子は身重なんだけど、のちの出産は無事に行なわれましたとさ。御都合主義だけど、一応安心してください。


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