『剣遊記 番外編Y』 第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。 (18) 「あら?」
このとき律子は、戦いの現場からバキッ ビューーンと、ふたつの音を耳に入れた。それからなにやら、黒い物体が自分の方向に飛んでくることに気がついた。
「あっと!」
抜群の反射神経の良さで、律子はその飛んでくる物体を、両手でガシッと受け止めた。
「困ッタコトニナッタンダナ。オ呼ビデナインダナ」
それがいきなり、徹哉の声でしゃべった。
「な、なんねこれぇーーっ!」
「ヴぁあーーっ!」
律子と秋恵は、そろって巨大な悲鳴を張り上げた。それと言うのも、飛んできた物体なるものが、なんと徹哉の生首であったからだ。しかもその生首が、ごくふつうにしゃべってくれたものだから、さらにたまらない事態となる顛末。それでも徹哉の首を放り投げない気の強さ。ここは律子を誉めても良いだろう。
「チョット油断シタラ、アイツノぱんちデボクノ首ガ外レテシマッタンダナ。デモ、ボクノぼでぃハ遠隔操作ガデキルカラ、コノママ戦イ続ケルコトハデキルンダナ。マサニチョッチュネ、ナンダナ」
「て、徹哉くん……あんた生きとうと!!?」
本来の反応として、ここは気絶をしないといけない場面。その義務(?)をつい忘れ、律子は恐る恐るの口調で、首だけの徹哉に尋ねてみた。
それも思いっきりに間抜けな質問を。
これに徹哉は首だけで、平然とふだんどおりに答えてくれた。
「ハイ、キチント作動シテルンダナ。ダカラボクノコトハ心配無用ナンダナ。マイニチマイニチ、ボクラハ鉄板ノ上ナンダナ」
この態度(?)が相変わらず小憎らしいが、秋恵がここで、横から身を乗り出してきた。
「ほんなこつ凄かぁ! 徹哉くんもやっぱ、あたしとおんなじホムンクルスやったとばいねぇ☆」
彼女の琥珀色の瞳が、見事な感じでキラキラと光り輝いていた。また徹哉の首が外れても、秋恵がすぐに冷静さを取り戻した理由は、自分自身が変形自在な体のホムンクルスだからであろうか。
「ほむんくるす……デショウカ……マサニがちょーんナンダナ」
秋恵のかなりにおかし気味な問いにも、徹哉はやはり、いつもの無感情😑で応じていた。ただし現在、律子の両手の中なので、首を傾げる動作もできないだろうけど。
「イエイエボクハ、正確ニハあんどろいど{人造人間}トイウろぼっとノ一種ナンダソウナンダナ。コレハボクヲ造ッタ日明博士カラ聞イタコトナンダケドナ。マサニしぇーナンダナ」
「あんどろいど……ろぼっと……なんね、それって? そげなん聞いたことなかばい✄」
「あたしもばってん……⛲」
さらに徹哉の口から次々と飛び出した、初耳――それも意味不明な単語の大連発に、律子も秋恵も、またもや定番で瞳が点の状態。そんなふたりに、徹哉がまたひと言。
「ワカラナイナラ、ボクノ首ノ切断面ヲ見テミルンダナ。あん・どう・とろわナンダナ」
「えっ? ……ええ……☁」
超驚きと超奇想天外の大連続で、今や半分――いやいや意識の四分の三が茫然自失の有様。言われるがままとなっている律子は、これまた恐る恐るの思い。両手でかかえている徹哉の生首(?)を引っ繰り返し、その切断面(?)を覗いてみた。
「なんね、これ……?」
徹哉の首の断面には、それこそ産まれてからきょうまで一度もお目にしたことのないような、奇妙極まる金属製やガラス製のネジやコードなどが、所狭しと詰まっていた。
「これが……あんどろいど……って言うと?」
初耳である名称を、一応は口にすることはできた。しかし、やはり自分の理解の及ばない世界を、ここで垣間見た思いの律子であった。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |