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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (16)

 いくら崩壊寸前の身体とはいえ、先に説明を行なったとおり、マミーの両手の爪には強力な毒が仕込まれており、それに刺されたら一巻の終わりなのだ。

 

「ドウヤラ、アナタタチノ長イ話ハ終ワッタミタイナンダナ。じすいずあぺん

 

「あんですってぇ!」

 

 ここでよけいなひと言。律子をカチンとさせて、彼女とマミーの間に割って入った者が、例によって徹哉くん。

 

「イヨイヨボクトアイツノ最終決戦ガ近ヅイタンダナ。ドンガサクヤインドムナンダナ。オ嬢サン方ハ危ナイカラ、ウシロニ下ガッテホシインダナ」

 

「徹哉くん……またなんか、たまがるようなことする気ね?」

 

 続く徹哉のセリフで、『カチン』は一時引っ込め。それよりもたった今、奇想天外過ぎる離れ業(ろけっとぱんち)を見せていただいたばかりなのだ。律子はもう、不安と心配を通り越し、もう勝手にせんね――の心境にまで達していた。

 

「まさかぁ……っち思うとばってん、またさっきとおんなじことすると?」

 

 秋恵もなんだか、期待と疑問の相反する気持ちを混在させたような顔で、マミーの前に歩み出るネクタイ青年の奇行を見つめていた。

 

これに徹哉は、またまた訳のわからないセリフをのたまうばかり。相も変わらず。

 

「イエ、ナンダナ。ろけっとぱんちハえねるぎーノ消耗ガ大キイカラ、アマリ連続使用ガデキナインダナ。ムッシュムラムラナンダナ。ソレヨリボクト踊リマセンカ……ジャナイ、見タトコロ、アイツハカナリ弱ッテルミタイダカラ、ココハ格闘デ勝負ヲ着ケタイト行動スルンダナ」

 

「あんたのそん根拠不明な自信の源は、いったいどこにあるとかいねぇ?」

 

 律子はあくまでも承服できかねる思いでいた。しかし徹哉の目線の先は、すでに女盗賊ではなかった。徹哉に迫りくる、マミーのほうへと向いていた。

 

「サア、来ルンダナ。オーケーボクジョウ。カ弱イオ嬢サンヲイジメル悪イヤツハ、コノボクガ成敗ノオ仕置キシテヤルンダナ」

 

 もう、いちいち指摘しても仕方がないのだが、徹哉の決めゼリフ(のつもり)には、まるで迫力といえる要素が含まれていなかった。

 

 ついでに申せば、同じ語句の繰り返し。そんな徹哉に向かってマミーが両腕を天に上げ、無言の雄叫び(矛盾している描写)で襲いかかってきた。

 

 いや、なにも語ろうともせずに黙しているからこそ、よけいに恐ろしいと言えるのかも。


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