『剣遊記 番外編Y』 第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。 (15) だがマミーの妄執は、いまだ健在のようでもあった。
「せ、先輩……やっぱあいが不死身やろーもん……まだ歩けるみたいばってん……♋」
震える口調の秋恵が言うとおり、マミーは自分が受けた衝撃など、まったく気づいていない感じ。ただひたすらに、律子や徹哉たちのいるほうへと、こくこく迫るだけでいた。
「……これっち伝説で聞いた話ばってん……☁」
律子は瞳をマミーに向けたまま、秋恵と徹哉相手にささやいた。まだ自分が駆け出しの新人盗賊だったころ、その技術を学ぶ学校で習った薀蓄を、土壇場の今になって思い出したのだ。
「こいつらマミーっち、自分の安らかな眠りば邪魔するモンば絶対に許さん性質があるって、昔聞いたばいねぇ✍ やけん遺跡ば発掘するとき、そげな話の伝承ばきちんと調べて、こいつらに絶対手ば出さんよう気ぃつけるって……もっともこげな街ん近くの調べ尽くしたはずの古城でマミーが眠っとうなんち、わたしも含めて誰もいっちょも知らんかったっち思うんやけどねぇ……✋✊」
「これっちたぶん、あたしの推測なんやけどぉ……✎」
先輩――律子の言葉を補足してくれるつもりか、秋恵も震えている口調のままで、意見を付け加えた。
「先輩も何回も言うたとですけどぉ……この城っち、隅から隅まで調べ尽くされて、もう発掘するとこなんかほとんど残ってなか、っち言われちょりましたよねぇ☝ やけど、誰も知らん隠し部屋が先輩の言われたとおりに隠してあって、そこでマミーが眠っとって、きょうのきょうまで偶然にも誰からもせびらかされんとおとなしゅうしとったんやけどぉ……あたしらが炉箆裸ってあい連中に追われて、こん城の秘密ん部屋ん前でごつかつんつらか(長崎弁で『滅茶苦茶』)したもんやけ、結果的にマミーばがらせて(長崎弁で『怒らせて』)しもうた……こがんな感じやろっか?」
長い意見ではあったが、律子は秋恵にうなずいてやった。
「きっとそげんとおりばい✑ 秋恵ちゃんもなかなか頭んよかばいねぇ☻」
「えへっ♡ そうやろーもん♥」
先輩――律子からちょっぴり誉められ、秋恵が可愛く舌👅を出した。だけど事態はもちろん、そのような呑気をしている場合ではなかった。
「せっかくばってん、お調子モンになるのはあとにして! やつが近づいて来よんやけ☠」
「きゃっ! ほんなこつ!」
律子と秋恵で長い推測話をしている間にだった。冗談抜きで、マミーが彼女たちの間近にまで迫っていた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |