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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (14)

 ガシャンッ――と音を立て、元どおりにふつうの右腕となって、徹哉の体の一部として戻ったわけ。それこそまるで、何事もなかったかのようにして。

 

「な、なんやったと……今の?」

 

 在り来たりで平凡な感想は覚悟のうえだが、それでも律子は、尋ねずにはいられなかった。これにまた、まるっきりの余裕で応じてくれる徹哉の態度が、腹が立ち過ぎるほどに小憎らしかった。

 

「ハイ、コレハナンダナ、タダノろけっとぱんちナンダカラ、特ニ気ニスルコトジャナインダナ。ワカッチャイルケドヤメラレナインダナ」

 

「でたん気にするばい!」

 

 律子の髪は、またもや逆立ちした。これに恐れを為したわけでもなさそうだが、徹哉が説明をさらに付け加えてくれた。

 

パンパカパーン、今週ノはいらいとナンダナ。コレハじぇっと機関ヲ応用シタ、小型発射式ノ兵器ナンダナ。自動こんとろーる・しすてむヲ備エテルカラ、遠クニ飛バシテモ、ボクノ所ニ帰ッテクルヨウニ設定サレテルンダナ」

 

「やけん、ますます意味がわからんとたい♨」

 

 産まれてこのかた、聞いた覚えのない単語の再羅列で、律子の癇癪は再び炸裂。緑の髪が逆立っただけではなく、ついに赤や黄色の薔薇の花までが咲き乱れた。だけど、いまだ好転していない事態を、秋恵が代わりに叫んでくれた。

 

「先輩っ! マミーがまだ死んじょりましぇん!」

 

「あっ……ほんなこつ……♋!」

 

 正気の世界に戻った律子は、今も倒れていないマミーに瞳を向けた。

 

「わっ……えずかぁ……♋」

 

 見ればドテッ腹に大きな風穴(穴の向こう側が見えるほど)の開いたマミーが、両手を前にかざしたまま、今もゆっくりとした足取りで、律子たちのほうへと近づいていた。

 

「そ、そりゃ、マミーの命なんち、何千年も前にとっくにのうなっとんやけ、今さら死んでるやつの体に穴が開いたからっちゅうて、大した効き目はないはずばい☢ でもぉ……☁」

 

 それなりに薀蓄を駆使して、律子は秋恵に説明してやった。それから瞳をこすって、再びマミーに目線を向けた。

 

「……やっぱ、体にあげん大きい穴が開いとったら、全体が崩れんのも時間の問題みたいばいねぇ……☠」

 

 律子のささやきどおり、ドテッ腹に大穴が開いたとあっては、さすがのマミーも体の重心が取りづらいのだろう。足腰がフラフラとよろめき、体に巻いている包帯もあちこちでほころんで、乾いた皮膚のカスがボロボロとこぼれ始めていた。

 

 これではミイラの体が自然崩壊となる展開も、間もなく――と言ったところだろうか。


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