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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (13)

「もう知らんばい!」

 

 秋恵はともかくとして、律子はついに癇癪を起してサジを投げ出した。同時にこのとき、徹哉はマミーに向けて、なにやら右手を前にして突き出す仕草を見せた。

 

 拳{こぶし}をしっかりとグー✊にして。

 

「な、なんのつもりね?」

 

 律子の問いに対する返答は、徹哉の大きな叫び声だった。

 

「必殺ノろけっとぱぁーーんち、ナンダナ!」

 

「ええーーっ!?」

 

 律子の驚きと、これまたほぼ同時。徹哉の右手が火を噴きながら、なんとシュババババァーーッと、彼の右の肘{ひじ}から飛び出したのだ。

 

 律子と秋恵の頭の辞書には記されていないであろうが、これは正確には発射と申すべきか。とにかくこの驚天動地に、女猛者で名を売っている律子は、ただでさえ点状態だった瞳が、今やミリ単位にまで極小化した。

 

「……ほんとにありよう、嘘みたいなほんとの話ばい……♋」

 

 あとはもう、今度は律子自身が自分で自分がなにを言っているのか。全然わからない有様。

 

 無論秋恵もこのとき、先輩とまったく同じような面持ちでいた。そのようなふたりの呆然は、この際隅っこに置く。それよりも、徹哉が放った右手の拳である。それは見事、真正面で対峙するマミーの胴体ド真ん中をズバァーーンと貫通。腹部から背中まで突き抜け。つまりドテッ腹に、大きな風穴を開けてのけたのだ。

 

 このあとまっすぐ飛んでいくかと思われた右手ロケットパンチは、城まで到達する寸前、クルリと逆方向――要するに進路の変換。持ち主(?)である徹哉の元へと、無事に帰還を果たしたのである。


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