『剣遊記 番外編Y』 第三章 美女が液体人間。 (22) 「ひ、ひええーーっ!」
これにて怯んだ残りの三人も、ボカッ ガスッ グチャッ――と蹴散らす律子。
「秋恵ちゃん、逃げるばぁい! 今はこげなとこでいたらん遊びしとう場合やなかけん!」
さらに大声を出して、男どもを現在翻弄しているピンク色のボール――後輩のホムンクルスって言うか、液体人間の秋恵に叫び掛けた。
すると律子の声に応じて、ボールがクルリと、男たちのド真ん中で方向を転換。コロコロと転がって、逃走に入ろうとしている律子のあとについてきた。
(なんも目も耳も髪の毛なんかも無か玉といっしょに走るやなんち……なんかたまがるみたいな感じばいねぇ〜〜☻♋)
今が緊急の事態であるにも関わらず、自分の左横を人の意思で転がっているピンク色をしたボールを横目で眺め、律子は思わず苦笑したくなる思いになった。でもって、そのついでだった。
「ヤバかっ! 徹哉くんがおったんばい!」
店長から預かった大事な生徒も助けないといけないことに、今さらながら律子は気がついたりもした。なにしろ徹哉ときたら、ほとんど活躍らしい活躍をしていないものだから。
「しょんなかねぇ〜〜☹」
大切な弟子とは言え、だらしのないヤローはやっぱり、お荷物以外の何者でもない。こいつ、けっこう体重あるやろうねぇ――と、本末転倒な心配事を胸に抱きながら、律子はいまだに寝そべっているままの徹哉の所まで、慌てて駆け戻ろうとした。そこで律子は、きょうはもう何回目になるであろうか。再びビックリをさせてもらう話の展開となった。
「自動修復しすてむ完了バッテン……ナンダナ」
「えっ?」
徹哉が閉じていた両目をパチリと開き、しかも再び訳のわからないセリフをほざいて、上半身をガバッと起き上がらせたのだ。
「あんた……起きとったとね?」
言葉の意味がさっぱり理解できず、ただポカンと尋ねるしかできない律子であった。それでも徹哉は、相変わらず感情表現のひとつもなし。淡々としたしゃべり方のセリフを繰り返すだけでいた。
「ソレデハ只今ヨリ、起動ヲ再開イタシマスナンダナデゴワスタイ。ボクノぼでぃノ異常個所ノぷろぐらむハ全部、タッタ今削除サレタバッカリナンダナ」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |