『剣遊記 超現代編U』 第四章 史上最大級の危機襲来! (6) 今回の騒動で、ひとつわかったことがある。それは我がB組の面々もまた、孝治に負けず劣らずの天然ばかりだったのだ。別に『おれ以外はみんな馬鹿☻』などと、思い上がっているつもりはないけれど。
実際柱の陰に(元男子とは言え)真っ裸の女子が隠れていると言うのに、誰ひとり怪しいとも言わず、ふつうに入浴を楽しんでいるのだから。
それでも一時は、正男や弘路たちがおれのそばまで寄ってきて、まさに絶体絶命的なピンチを迎えたものだった。おれはそのたびに、こいつらのアホな会話に参加した振りをしたりして、なんとか柱の陰への興味をそらす作戦を実行したものだ。この間、振り向いて確認することもできないが、孝治はずっと息を潜めて、柱の陰に隠れ続けていた。柱のかたちは完全なる円形で、ヘタをすれば両側から発見されても、全然おかしくない状況だと言うのに。
とにかくこれでは早いうちにお湯から上がらないと、絶対に湯あたりをしてしまうだろう。
それからどんどん話を飛ばす。やがて嵐は、本当に過ぎ去った。こいつらみんな、一回もお湯から上がらないで、ただひたすらに柱を背にしているおれのことなど、全然気にも留めていなかった。これはこれでなんだか寂しい思いもするのだが、とりあえず孝治にとっての危機一髪は、なんとか回避された感じ。B組のヤローどもはやいのやいのと騒ぎながら、浴場から脱衣場へと戻っていった。
浴場は再び、おれと孝治だけの空間となった。おれは速攻で、うしろに振り返ってみた。
「おい、孝治……大丈夫か……♋」
返事がなかった。
「やばっ! まさかっ!」
その『まさか⚠』だった。よく見れば孝治は、首から上をかろうじて水面から出しているものの、ほぼ意識不明の状態が一目瞭然でいた。早い話が、さっきからの悪い予感のとおり、孝治は湯あたりを――つまりのぼせたのだ。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |