『剣遊記 超現代編U』 第四章 史上最大級の危機襲来! (3) 風呂場はけっこう広い感じになっていて、これならクラス全員がドカドカと押し寄せても、充分スペースがありそうに見えた。ただし楕円形{だえんけい}になっている湯船のド真ん中に、円柱状の太くて大きな柱が一本。デデンとそびえているのが、はっきり言って意味不明。だがそれよりもおれは、湯船に先客が入っていることに気がついた。
こちらにはまだ、背中だけを向けているのだが、しかしその後ろ姿におれは、見覚えがあった。髪もほどほどに伸びて、両肩よりも下のほうまでかかっているし。
おれは試しに声をかけてみた。
「まさか……孝治か?」
「うわっち!」
声に振り向いてくれたそいつは、間違いなく孝治だった。このときチラリと孝治の巨乳――それも生{なま}が見えたりして。
とにかくこれは、不可抗力――だと思う。その孝治が慌てた感じで、自分の胸を両手で隠しながら、甲高い声で言ってくれた。両手を使っても隠しきれていないことは、この際言わないようにする。
「な、なんで秀正が女湯に入ってくんだよぉ!」
おれは言い返した。
「アホか! ここは男湯だろうが! おれだってちゃんと確かめてから入ったんだからな!」
「うわっち! 間違えたの、ぼくのほう!?」
孝治はさらに慌てながら手を組み換え、右手と左手でそれぞれ胸と下の部分を隠しつつ、湯船からバシャッと立ち上がった。どうやら孝治は本当に間違えたか勘違いをしたかして、女湯に入るつもりが、男湯に入ってしまったようなのだ。これを孝治は、以下のように言い訳した。
「うわあっ!」
目のやり場に窮したおれを前にして。
「ぼ、ぼくぅ……どうも女湯に入ろうとして、なぜか無意識で男湯のほうに足が向いちゃった……みたい☢ 入るとき、なにか考え事してたし、入っても誰もいなかったから、なんの疑問も感じないままでね……☻」
などと一応事情を説明してくれるのはいいのだが、今のおれにはそれ以上に、物凄く困る大問題が発生している。もう全部わかっていることだが。
「かぁ〜〜っ! こんなときまで天然ぶりを発揮させやがってえ☢ ま、まあ理由はわかったから、早く体をお湯ん中に入れてくれぇ! さっきから(けっこうスタイルがいい)おまえの裸が、おれの目にバンバン入ってしょうがないんだけどなぁ☠☠」
「うわっち! ごめん!」
孝治はまたもや大慌てで、今度は湯船の中にズブズブと沈み込んだ。もう両肩までのみならず、顔の半分が水面以下となった。
「と、とにかく早く出ろ! もうすぐ和志たちが入ってくるからな!」
「うわっち! そ、そうする!」
続いて孝治は湯船からバシャッと飛び出し、そのまま駆け足で、脱衣場へとダッシュした。このときおれは初めて完全に、女性化した孝治の一糸もまとわぬオールヌードを拝見してしまったわけ。言い訳的には、ほんの一瞬の出来事――それも背中からお尻にかけての後ろ姿だけ――であるけど。
だが遅かった。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |