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『剣遊記閑話休題編U』

第四章 ヴァンパイア娘、危機一髪!

     (8)

「とにかくこれで、祐一さんもどごえん(長崎弁で『暴れん』)ようなったことやし、衛兵隊への自首は清滝さんにお願いばしますね♢♦」

 

「ああ、必ず罪の償いばさせますけ☭」

 

 彩乃の言葉にうなずき、深く頭を下げる清滝氏に目には、ひとしずくの光るモノがあった。

 

それから彩乃は、瞳の色を赤から金へ。さらに元の黒へと変えた。その次に倒れている祐一と、兄を介抱している祐二。車椅子の清滝氏へと顔を順に向け、十七歳の年齢にふさわしく、明るい笑顔の少女に立ち返ってから言った。

 

「そいぎんた、わたしはうちんがた未来亭に帰りますけ♡ うちんがたの黒崎店長には、水晶亭は元気に営業ばしちょりますっち言うときますばいね♡」

 

「ほんなこつ、申し訳なか☁」

 

 ここで再び、清滝氏が頭を下げる。続いて彩乃は祐二にも、少々意味ありげな笑みを贈ってあげた。

 

「そんけん祐二さんも、これからはもっと真面目に働くとよ♡ だけん兄さんがこげな気苦労ばしてしもうたんは、わが甲斐性なしが原因でもあるとやけね♡ そして祐一さんが務めば終わって帰ってくるまでは、水晶亭はわが双肩にかかとんやけ♡ それからわがもう少し、ヴァンパイアについて勉強したほうげええばいね♡」

 

「わかっちょうばい♠ オイにも責任ばあるっちゅうことぐらい☠ それよかその、勉強っちゅうのはなんのことばってん?」

 

 彩乃の言葉の意味がわからないようで、祐二は両方の目の玉を、見事に丸くしていた。これに彩乃は、これまた丸い瞳になったつもりで返してやった。

 

「わたしん部屋ん窓から、十字架ばごつか吊るしたんは、わがでしょ☞ もともとヴァンパイアは十字架ば怖がらないかん理由も義理もなかっちゅうこと、実はいっちょん知らんかったとでしょ✌ 昔ながらの迷信そんまんまでね♡」

 

「あっちゃあ〜〜☠」

 

 本当に痛い所を突かれたらしい祐二が、今度はもろ恥ずかしそうな苦笑いを顔に浮かべ、右手で頭をかいた。

 

「……あれかて一種の警告のつもり……やったとばってんなぁ〜〜☠ けっきょくオイの馬鹿ば曝しただけやったばいねぇ〜〜☃」

 

「そげんこと☀ 警告には感謝ばするけど、馬鹿にされたいんやーぎんな気分のことは、文句ば言うとくばいね♡ そいぎんた、せいぜい勉強ば頑張ってやぁ〜〜♡」

 

「頑張ってっちゅうたかてねぇ……わらこそオイば馬鹿にしちょうろも……あっ! こらぁ! 人ん話ばお終いまで聞かんけぇ!」

 

 祐二が文句を垂れている真っ最中。彩乃は自分のその姿を、パッと大コウモリへと変化させた。しかもそのままバサバサバサッと、脇目も振らずに空高くへと舞い上がった。


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