前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記閑話休題編U』

第四章 ヴァンパイア娘、危機一髪!

     (7)

「うげっ!」

 

 祐一が驚がくと苦痛の声を上げた。

 

 このときすでに、彩乃は瞳の色を黒から金色へ。またさらに血のような真っ赤へと、見事に変色させていた。

 

 完全なる吸血形態への変貌であった。

 

「うっ……うぐぐ……ぐ……☠」

 

 首筋に噛みつかれ、呻く祐一の顔から、みるみると血の気が薄れていった。やがて握り締めていた棒切れをカランと足元に落とし、両腕もだらんと、垂れ下がるようになった。実際このまま吸血が進めば、それこそ被害者の絶命が避けられない事態となるであろう。

 

「もうよかばってん。そぎゃんかかじっといかんばい☁」

 

 そんな彩乃を止めた者は、沈みきった表情の祐二であった。

 

「いくら罪ば犯したっちゅうたかて、なんさまオイのあんじゃもんなんばい☹ やけんこれ以上血ば吸うと、勘弁してくれんね☁」

 

「やせんなかねぇ、わかったけ☀」

 

 弟――祐二の哀願を受け入れた彩乃は、首筋から牙を抜いた。しかし祐一のほうはトロンとした顔になっており、今や抵抗力といえるモノを、完全に失った状態になっていた。

 

 彩乃は言った。悪気など完全皆無で。

 

「人は体内の血の三分の一ばのーなかしたら死ぬるとやけど、わたしが吸うたんは五分の一だけやけね♥ だけんこんあと水分ば補給して、ウナギっとか牛のレバー料理なんかば食べさせたら、いっちょけても早めに回復するもんやけ♥」

 

「あのぉ……五分の一かて、ひちゃかちゃやおいかんっち思うとばってん……☠」

 

 彩乃の言い分には、現状に引っ掛かる部分が大ありだった。しかし祐二もこれ以上、彩乃にツッコミを入れなかった。

 

実際ヴァンパイアの真の恐ろしさを、嫌と言うほどに見せつけられたのだ。これではある意味、ツッコミの自主的引っ込みも、致し方がないと言えるのかも。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system