『剣遊記閑話休題編U』 第四章 ヴァンパイア娘、危機一髪! (6) 祐一さんったら、自分の実力ば過大評価し過ぎとうばい――これでは彩乃も、そのように考えるしかなかった。しかし祐一が足元に転がっていた棒切れを右手で拾い上げたとき、彩乃の全身に緊張が走った。
「な、なんばする気ぃ!」
「あんじゃもん! 馬鹿んこつすんなぁ!」
「祐一っ! そん棒ば捨てんしゃーーい! ばたぐる真似すんやなかぁ!」
「うるしゃあーーっ! うたるっぞ、ぬしゃあ!」
もはや聞く耳持たずの形相で、祐一が彩乃たち三人に、憤怒の目を向けた。
「ここで三人とも、滝につこかして事故死ばしてもらうばい! 目撃者はおらんし、僕の証言だけやったら衛兵隊かて聞いてくれるに決まっとろうけ!」
「わりゃ、本気ね!」
ここでやや強がり的に、彩乃は言い返してやった。だけど祐一の血走っている真っ赤な眼球を見て、それ以上の口出しをやめる気になった。
(もうこれ、おとろしかばい☠ ぞーたんのごと、頭ば完全にキレとうけ☠)
さらに、こん人がほんなこつわたしの……一時的なんやけど……心ばときめかせてくれた祐一さんやろっか? 一生に一度、あるかないかの大幻滅で、彩乃は大声で泣き出したい気分にもなった。
しかし事態がここまで悪化すれば、残った手段は、ただひとつ。最後の奥の奥の奥の手を使うしかなかった。
「まずはぬしからばぁーーい!」
棒を高々と振り上げた祐一が、いの一番で叩きつけようとした相手。それは彩乃の脳天だった。この場で一番頑強そうなヴァンパイアから、真っ先に始末をしようとでも言うつもりか。
だが、刹那!
彩乃は素早く、祐一の右脇へと飛びかかった。彼が振り下ろす棒切れよりも、格段に速いスピードで。
しかも当然ながら、カプッと祐一の首筋の右側に、鋭い牙を突き立てた。祐一の体に二度目であった(前回は左手)。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |