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『剣遊記閑話休題編U』

第四章 ヴァンパイア娘、危機一髪!

     (3)

「…………」

 

 沈黙は、一種の自白と同じ。もはや祐一の黙秘の態度が、彩乃の推理を力付ける結果となりそうだ。先ほどから内心で示しているとおり、根拠の乏しい推論に、なんだか魂が宿るかのようにして。

 

「く、くっくっくっくっ……☻」

 

 だが沈黙はやがて、薄ら笑いへと変化した。それは端正で二枚目だった祐一の笑顔がゆがみ、逆に醜く崩れていくかのようだった。

 

「そんとおりばい☻ 僕はそれば狙ろうとったと♐」

 

 祐一は今や、完全開き直りの域だった。彩乃はそんな彼に、改めて問い直した。

 

「どげんしてそがん馬鹿んこつすると!」

 

 少々の怯えを表情の裏に隠し、それでも彩乃は気丈に振る舞った。そこへ祐一が言い放ってくれた。

 

「簡単な話ばい☻ 君が言うちょうりばってん、融資の話がのうなったら、水晶亭は倒産やけ そしてこれは、親父の責任やけね♐ 経営者失格ってことでね☠ なぁに、一回くらい倒産したかて、どぎゃんこつもなか☆ あとは僕が経営ば引き継いで、店ば再建すれば良かことやけね♥」

 

「つまりぃ……一刻も早よう、後継ぎになりたかった……っちゅうわけたいね☠」

 

「そうったい! 親父はあぎゃんとおり年寄りんくせして、なかなか僕に家業ば継がせようっちせんのやけ♨ 何度御注進したかて、けんもほろろやったばい♨ ばってんこぎゃんなったら多少手荒か真似に訴えたかてでも、新しか早生者{わさもん}の僕が実権ば握らな、水晶亭はこれから一切、立ち直りができんほど傾いてしまうとばい☠」

 

 そこまで言い切るのと同時。祐一の両手が彩乃の首を、いきなり左右からガシッとつかんだ。

 

「あぷっ!」

 

 一瞬にしてノドを絞められ、彩乃は大きく両目を開いた。おまけに声帯も閉ざされ、あえぎ声すら出せなかった。

 

「これはさっきの杭の続きばい! 君はこれでも死なんちゅうけ、とにかく気絶ばさせて、あとで心臓に今度こそ杭ば打っちゃるけ! さっきのやり直しばい!」

 

「あう……うぷ……☠」

 

 酸素欠乏で薄れかけた彩乃の意識に、もはや汚れきっている祐一の声音が響き渡った。

 

「君ば殺した犯人は祐二たい! 君にそーとーチョッカイばかけよったし、状況証拠は充分ばいね!」

 

「そぎゃん行かんけね!」

 

 突然藪の中からバサッと(二度目か)、祐一と同じ体格の男が飛び出した。さらにその勢いのまま、絞殺実行犯の体をドカンと思いっきり、全身の体当たりで突き飛ばした。


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