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『剣遊記閑話休題編U』

第四章 ヴァンパイア娘、危機一髪!

     (2)

「これが鎌で切った切り傷ね☞」

 

 彩乃の指摘するとおり、甲の傷は鋭利な刃物でできたケガとは、明らかに異なる状態であった。強いて言えば、なにか尖った物が突き刺さったことを感じさせる傷跡となっていた。それも同じ穴が、ふたつ並んだかたちで。

 

「……ぼっくり恥ずかしいとやけどぉ……わたしの歯型をピッタリばいね★」

 

「うっ……☂」

 

 彩乃の確信と祐一が左手を引いて隠そうとする動作が、見事に重なった。それに構わず、ヴァンパイア娘は言葉を続けた。

 

「こがん他にも、いきなりどっかから木の杭ば投げて、わたしの心臓ば狙ったりとかぁ♐ これってヘタしたら、ほんなこつ致命傷やったとよ☠ だけん、わたしがヴァンパイアっちゅうこつ、かなり認識してないと考えつかんことよねぇ☠ それとなして、わたしが頼んだくらいで、あなたがこがん人気んなか場所まで連れてくれるとやろっか? 夕方近いんやし、もっと手近なふつうの場所でもええっち、わたし最初に言うたはずばい★ やとすると、そん目的は他に考えられんね?」

 

「いったいなんば考えるっちゅうとですか? 僕にはあーたの言いたかことが、いっちょんわからんとですが……♨」

 

 この期に及んでなお、祐一のシラは続くようだが、その理由は明解。彩乃自身も実は自覚をしているのだが、早い話が根拠の弱い推定ばかり。その気になれば簡単に、否定ができる内容に尽きていた。しかしそれでも、彩乃はまだまだ強気でいた。そこで今度は『しょうがなかばってん☠』の気持ちに切り換えて、彩乃は根拠をはっきりと示さないまま、推論をさらに続行させた。あるいは強引に。

 

「だけん、これはわたしの『もしも』なんやけどぉ……もしもわたしがここで事件なんかに遭{お}うたりしたら、いったいどがんなるとやろっか? たぶんうちの黒崎店長がぼっくり怒って、融資の停止なんかば言い出すはずばってん……そげんなったら水晶亭にとって、おとろしかほどの打撃になるはずばい⚠ そしてあなたは、それば狙っとったっち……☞」

 

 ――と、ここまで言っておきながら、彩乃は内心でちょっぴり、黒崎店長に謝っていた。

 

(なんちわたし言いようばってん、うちの店長っち、そがん器量のずんだれた(長崎弁で『だらしない』)人やなかもんね♡)

 

 ついでにペロリと舌も出す。


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