『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (9) 「ちちっ!」
リスが慌てて、千夏の手から逃れようともがいていた。
「逃げたらあきまへんで!」
「ちちちっ!」
だが凛とした美奈子の一喝で、リスの動きがピタリと停まった。
「このままうちらの元から逃亡しはるのは自由でおます♥ そやけどそんときは一生をリスで終わる覚悟が必要でおますさかい、そこんとこよう心得ときなはれや♠♐」
「ちち……☁」
美奈子の決めゼリフで、リスは早くも観念したようだった。もはや暴れることもなく、おとなしく千夏の手の中に収まった。
可奈が無蚊寅にかけた変身術は、かけられた者の自由意思で、人間と動物に交互に変われる便利な魔術であった。しかし美奈子の術には、容赦がまったくなかった。なぜなら術をかけた者がそれを解かない限り、どうやら永遠に動物になりっぱなしのようなのだ。
「……ということっちゃね☢」
「怖かぁ〜〜!」
友美の解説を聞いた孝治は、自分の身に心底からの震えを感じた。
悪役であるはずの可奈よりも、ケタ違いの残酷ぶり。さらに追い討ちをかけるかのごとく、美奈子がもうひと言を付け加えた。
「それからもし……でおますんやけど、もしうちが不慮の死を遂げてしまいはった場合、おまいさんにかけた術はこれで完全に解けなくなってしまいますさかい、そんときはこれも運命や思うて、どうかおあきらめになってくださいえ☠」
「おっそろしかぁ〜〜!」
これが孝治の恐怖心によるセリフの第二声。続いてすぐに、第三声も発した。
「おれは再認識したっちゃね✍」
「なんをね?」
友美が不思議そうな瞳で尋ねた。孝治は自分でも口調の固さを自覚しながらで答えてやった。
「美奈子さんちやっぱ……おっとろしいっちゅうことをやね✍ やけん美奈子さんば怒らせるようなこつ、おれは絶対せんし敵にもならんけ✍ いつまでもお友達付き合いでおらんといけんっちゃね✍」
「わたしも同感やね✎」
『右に同じばい✎』
涼子までが友美と並んで、孝治の言葉にうなずいてくれた。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |