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『剣遊記X』

第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。

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 この一方で、元可奈だったリス(種名は『ニホンリス』のようだ)を千夏が改めて抱き直し、優しく頬ずりなどの愛撫を繰り返していた。

 

「はぁぁい♡ リスちゃん、いじめたりなんかぁしませんですからぁ、千夏ちゃんとぉ仲良くしますですうぅぅぅ♡」

 

「ちち……☠」

 

 これにてさらに、完ぺきに観念をしたらしい。もはや可奈に反抗の素振りはなし。おとなしく千夏に抱きかかえられていた。

 

 その光景を横目で見ながら、孝治は美奈子に、恐る恐るの気持ちで尋ねてみた。

 

「……信用できん相手ば動物にしちゃうってぇのは……ある意味ええ考えっち思うっちゃけどぉ……お宝の在り処ば白状させるときはどげんすると? そんときはいちいち人間に戻すとやろっか?」

 

「それならば気づかい無用でおます☀」

 

「はあ?」

 

 妙に自信たっぷり気な美奈子の態度に、孝治は頭の上の『?』が増えるばかり。

 

それでも美奈子には関係なし。得々とした説明が続いた。

 

「千秋も千夏も、いろんな動物と意思疎通ができますさかい、その辺に抜かりなどございまへんのえ✌ リスのまんま、お宝の在り処を教えてもらいますよってに✑✒」

 

(またそん双子けぇ……♠♠)

 

 孝治の疑問は、さらにふくらんだ。ほんなこつそん双子姉妹って、いったい何モンなんね――と。

 

「でも、相手ば可愛いリスにしちゃうなんち、正直わたしも驚いちゃったばいねぇ♐」

 

「ほほほっ♡♡♡」

 

 続く友美の言葉にも、美奈子は余裕の微笑みで返していた。

 

「それはうちにも『お情け』というものがありますさかい、ここは醜い動物は堪忍してはって、せめてかいらしい愛玩動物にして差し上げたというものどすえ♡♡」

 

(それがもう、『お情け』でもなんでもなかっちゃよねぇ☢ どっちにしろ動物にされたっちゅう本人のプライド、ズタズタやけねぇ☠)

 

 ここでまた突っ込みたくなる衝動を、孝治は必死に近い気分で堪えた。しかし、美奈子の概念で愛玩動物がリスであるとは、これはこれで意外でもあった。普通魔術師の感覚でいえば、愛玩とは蛇やトカゲのほうが、ピッタリの気がするものなのだが。

 

(もしかして、実は愛玩動物ってのは方便で、ほんとは抵抗できん弱小動物ってことで、相手ばリスにしたんやなかろっか……☠☁)

 

 こっそりと孝治は推察した。ここはやはり、美奈子はやっぱりおっそろしい――この結論で、話を締めくくるしかなさそうだ。

 

(もし……美奈子さんが悪に目覚めて、本気で世界征服ば企んじょる事態にでもなったっちしたら……そんときおれは……どげんしたらよかっちゃろっか? そんときおれは……美奈子さんの一の子分にしてもらうっちゅうのが、いっちゃんええんやろうなぁ……おれみたいなぺーぺーの戦士が勝てるわけなかっちゃけ☢ なんか情けない話っちゃけどねぇ〜〜☠)

 

「そげん言うたら美奈子さん……今回はいっぺんも、得意の白コブラに化けんかったっちゃねぇ……♐」

 

「えっ? 急になん言いよっと?」

 

『まあ、確かにそうっち言うたらそうっちゃけどぉ……♓♑』

 

 本音を知られたら、友美も涼子も、たぶん孝治に幻滅したりして。そこでどうでも良い別の疑問点を、孝治は友美と涼子につぶやいた。この行ないは、これ以上美奈子に深入りするのを避ける、孝治の自衛手段でもあったのだ。

 

 なんとなく情けない自分を隠すための。


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