『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (8) もちろん美奈子が、このままで話を終わらせるわけがなし。この天才魔術師は気絶から意識を取り戻すなり、宿敵である可奈を叩き起こした。
「ちょいとおまいさん、確かおまいさんも、こことは違うとこにお宝を隠してはるって言いよりましたよねぇ☛☢」
可奈は現在、体全体をヒモでグルグル巻きにされ、魔力も美奈子によって封印中。つまりが完ぺきなる人権蹂躙状態となっていた。
そんな可奈に向け、美奈子が凄味を効かせながら、優しくニッコリと微笑んだ。
「よろしかったらそのお宝、うちらに寄贈してくれはりまへんやろっか♥」
だが可奈は定番どおり、断固拒絶を貫いた。
「ふん! 嫌だべさ! 誰がおめなんぞに教えてやるもんずらか! ビタ一文おめなんかに譲らねえずらよ!」
無論美奈子が、これで問屋を卸すはずがなし。可奈の前に、右手人差し指を差し向けた。
「まあ、今は無理にしゃべらへんでもよろしゅうおまっせ♥ おまいさんはそんうち、自分から進んでうちによう教えてくれはる気になりますさかい♐☠」
それからぶつぶつと、なにやらの呪文を唱え出す。
「な、なんやる気ずら? まさかあれさ……☢☢」
すっかり怯えきっている様子である可奈のセリフが、中途で途切れた。
「あう? あうあうあう……☁」
やがて口から人語が出なくなり、おまけに体が、みるみる縮小していった。これにより、周りで見ている孝治たちも、美奈子がなんらかの魔術を可奈に仕掛けようとしていることがわかってきた。
孝治は友美に訊いてみた。
「美奈子さん、なんしよんやろっか?」
友美は興味しんしんの顔を美奈子に向けたまま、孝治に答えてくれた。
「これってすっごう高度な魔術ばい✍ たぶん呪文の感じからしたら、変身術の変形みたいっちゃけどぉ……✎」
それからしばし、周りのギャラリーたちが見ている前だった。可奈の姿がスッポリと、黒衣の中に収まった。つまり可奈の体が、着ている服よりも小さくなったわけ。このあと黒衣の下からもぞもぞと、一匹の小動物が這い出した。
「うっわあああっ♡ とってもぉ可愛いリスさんですうぅぅぅ♡」
まさにそのとおり。赤毛のリスが怯えているかのように、そっと顔を覗かせたのだ。
そのリスをあっと言う間、千夏が捕まえて胸元で抱きかかえた。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |