『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (6) 孝治と裕志で協同して、社の奥にある祭壇から持ち出したあと、金の輪は魚町がかかえて外に出た。なぜならこれは、魚町に課せられた試練である。従って、必ず自分自身の手で村まで持ち帰らないといけない、いわゆるしきたりとなっているからだ。
「きゃあーーっ♡ 進一さぁ、やっただにぃーーっ♡」
静香が言葉どおりに飛び上がって喜ぶ様は、もはや説明不要。反対に美奈子は、瞳を大きく見開いていた。
「こ、こないなけったいなモンが……赤城山にあるお宝……なんどすか?」
静香と美奈子だけではなく、全員が注目している金の輪は、まさしく巨漢の魚町が持つにふさわしい、とんでもない大きさのシロモノだった。それはまるで、輪の中に二、三人が、すっぽりと嵌まるかのような。その魚町のうしろでは、孝治と裕志でしみじみとうなずき合っていた。
「けっこう重たかったっちゃねぇ✍ ふたり掛かりでちょうど良かったっちゃよ✌」
「うん♋」
魚町は右手だけで、その輪を軽々と持ち上げていた。ところが孝治と裕志は同じそれを、ふたりで協力して運ばないといけなかったのだ。
ここで千秋も、きつめの性格にしては珍しく、本心からのような驚きの顔をしていた。
「なんやなぁ☹ こりゃちょっと大き過ぎやでぇ☢ こんな輪っか、まるで海水浴の浮き輪みたいなもんやなぁ☁ 水に浮くはずないんやけどな☠」
それほどまでに、赤城山所蔵のお宝は大きかった。これを大巨漢の魚町が持ち上げているからこそ、遠目にはちょうど良く見えるだろう。まさに千秋が言うとおりの、外見は浮き輪という感じで。
「ほんなこつ大きかぁ〜〜☆」
友美も興味本位で近づいているが、彼女の小さめな体格と比べれば、まさに巨人{ジャイアント}専用の腕輪のようにも見える有様。
『よう考えてみたら、これってお祭り用のお飾りやけねぇ☞ こんぐらいあって当たり前かもね……あら?』
涼子も好奇心丸出しで、輪っかを眺めていた。だがそこで、なにかに気づいたご様子。
「どげんしたと? 涼子」
『これば見てん☛☛』
尋ねる友美に、涼子がなにかに気づいたらしい部分を、右手で指差した。
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