『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (4) と、そのときだった。
「はっ! わわっ!」
眠れる山賊どもの中から、たったひとり。いきなり目覚めた者がいた。
「わ、ひ、ひえーーっ!」
そいつは真っ裸で飛び起きるなり、その姿をパッとカラスに変えた。
そう。目覚めた者は無蚊寅だった。
「うわっち! カラス野郎が逃げるっちゃ!」
すぐに孝治たちは追い駆けようとした。だがやはり、飛ぶ鳥には敵わなかった。
「あららぁ〜〜! わたしの術、もう一部切れちゃったみたいっちゃねぇ☃」
無蚊寅にも『眠り』の術をかけたはずである友美も、口をポッカリと真ん丸に開いていた。どこか他人事のような感じで。そんな孝治たちの見上げる前で、カラスが大きく羽ばたくと、あっと言う間に地上からは絶対に手が届かない高空まで舞い上がった。
「かぁーーかぁーーっ☠」
今の鳴き声を人間語に訳せば、『へへい! ざまぁーみるべぇ☠』といったところか。とにかく大きな声を出し、無蚊寅が明らかな嘲りの振る舞いで、悠々と空の上を旋回していた。
その背後から、突如大きな影がかぶさった。
「くあっ?」
「おあいにくだのぉ♥ ただの鳥がバードマンから逃げられるわげねえだがねぇ♥」
背後の影は静香だった。静香がカラス以上に大きな翼を翻{ひるがえ}し、音速に近い飛行と急上昇で、無蚊寅まで一気に追い着いたのだ。
「くあーーっ!」
「おっと! 逃げられるわげねえって言ったんだにぃ♥」
慌てて翼を羽ばたかせるカラスを、静香が手に持っていたロープで、あっと言う間に素早く、グルグル巻きに縛りあげてしまった。
まさに電光石火の早業。静香の勝利宣言が、赤城の山々に大きく木霊した。
「一丁上がりぃーーっ♡♡」
最後の山賊も、これにて見事に御用。静香が意気揚々と、地上への降下を開始した。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |