『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (3) さらについでか。美奈子が右に、さらりと視線を変えた。
「どうでっしゃろ、裕志はん☀ これならうちを牧山家にご紹介してくだはりましても……」
早い話。美奈子はいついかなる状況になっても、いまだに玉の輿の件を忘れていなかったのだ。そんな美奈子が下心を丸出し。可奈をやっつけた勢いでもって、裕志に駄目押しの売り込みをかけようとしていた。
だが、言葉はそこまでだった。
「…………」
京都出身の女魔術師は、見てはいけない場面を見てしまった。
「うわっち! 裕志、凄か!」
孝治も思わず赤面。裕志が意識を取り戻している由香と、熱い口づけを交わしていたのだ。
可奈の『火炎弾』で鎧も衣服も全部吹き飛ばされた由香は、文字どおり、一糸もまとわぬ全裸の格好だった。だが、もはやそんな些細(?)な状況など、まったく関係なし。ふたりは固く抱きしめ合い、お互いのくちびるとくちびるを、熱く重ね合わせていた。
「……牧山家に……どげんするつもりやったと?」
裕志と由香の大胆な振る舞いで、孝治も初めは、なかば放心状態だった。しかし我を取り戻すなり、うしろから美奈子に、そっと声をかけてみた。それでも美奈子はふだんの彼女らしく、気高い雰囲気を、決して崩そうとはしなかった。
「……ま、牧山家など……う、うちにはなんの関係もないことどすえ☓ そ、そ、それよりうちと千秋と千夏には、ひ、ひ、ひ、日々の魔術の殊勝……やおまへん☂ そう、しゅ、修行に昇進……やのうて精進せなあきまへんのや☃」
(声が思いっきり裏返っとうばい☠)
突っ込みたい部分は我慢をして、孝治は美奈子を見つめ直し、感慨深げにつぶやいた。
「称えてやりたいほどの、往生際の良さっちゃねぇ〜〜★」
そこへ千秋と千夏のふたりが、美奈子の黒衣に飛びついて鼻をうずめた。
「そんとおりやで、師匠! 千秋はどこまでもついてくで!」
「美奈子ちゃあぁぁぁん♡ 千夏ちゃんもぉいっしょしますですうぅぅぅ♡」 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |