『剣遊記X』 第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。 (14) 「先ぱぁーーい!」
すぐに孝治たち五人は、先輩の元まで駆けつけた。
「わわっ! 見つかったっちゃね!」
魚町は相変わらずで、その巨体に似合わず、愛嬌たっぷりの驚き方をした。
「なんしよんですか、先輩? もうすぐ結婚式が始まるとでしょ♐」
きつく問いただす孝治に、魚町が口元に右手人差し指を立てて応じた。
「すまん! こんまんま行かせてくれんね! おれはやっぱ、もうちょい独身でいたいんやけ☂」
「独身たって……往生際が悪かっちゃですねぇ〜〜☠」
「そうだんべぇ! みっとがないほど往生際悪かんべぇ!」
「うわっち!」
このとき孝治のぼやきと、静香がバサバサと翼を羽ばたかせて塀の内側から飛び出したのが、見事に連動した。これには孝治もビックリ!
「進一さぁ! ここであたしから逃げようったって、そらぁうんまか無かんべえ! だって地球は丸いんだもぉーーん!」
「わわああーーっ! もうバレちょったあーーっ!」
もはや孝治たちに、かまっている場合ではなし。その巨体からは想像もできないような瞬発力で、魚町が猛然とダッシュした。
行く先は――もうどこでもOKらしい。とにかく静香が追ってくる限り、たぶん地球の反対側までも。
「婿殿待つだぁーーっ!」
静香に続いて村の衆までが、塀を越えてわらわらと現われた。それも村長を先頭にして、各々飛んだり跳ねたり走ったり。あるいは獣の姿で疾走したり。総出で新郎――魚町を追い駆ける有様。
こうなると、孝治たちも関係者――もしくは後輩としての立場上、魚町を追わないわけにはいかなくなる。
「先ぱぁーーい! いい加減観念しちゃってやぁーーっ!」
孝治は走った。
裕志と由香も走った。
さらに友美と涼子(幽霊は空中浮遊)も孝治のあとに続き、魚町を追い駆けた。
『なしてあたしたちまで、いっしょに鬼ごっこばせないけんわけぇ?』
「わたしに訊かんといて! もう、わたしにもなんがなんかようわからんとやけぇ?」
結果、翼を広げて高速飛行する静香が大将格。そんな何百人もの軍勢(?)から追われる破目となった魚町先輩。ふたりの雄叫びが関東の山々に、木霊となってどこまでも轟き続けていた。
「おれはまだまだ結婚したくなかとぉーーっ!」
「あたしはどこまでも追っ駆けるかんねぇーーっ!」
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