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『剣遊記X』

第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。

     (13)

「……な、なんやっちゅうとよぉ!」

 

 美奈子と双子とロバの姿が見えなくなってから、ようやく由香が口を開いた。

 

「あたし! 裕志さんが牧山家やのうても大好きなんやけぇ! 御曹司なんち関係なかっちゃけねぇ!」

 

「まあまあ

 

 今になって憤慨しまくりの由香を、当の裕志がなだめてやった。

 

「ぼくかてようわからんとやけど、あれが美奈子さん流の気の配り方やなかろっか☞ ちょっとばかし、きつい言い方しかできんみたいなんやけどね☺」

 

「おれもそう思うっちゃよ☻」

 

 美奈子とは、それなりに長い付き合いだと自負している孝治も、ここで裕志の意見に肩入れした。

 

「美奈子さん、完全に玉の輿ばあきらめとったけねぇ☻ だって、裕志と由香が抱き合っとうとこ、しっかり見とったけ☛」

 

「やだぁーーっ! あれば見られたとったとぉーーっ!」

 

 とたんに由香の顔面が紅潮化。恐らくあのときは、裕志も由香もお互いの無事を喜び合い、その勢いでもしかしたら、無意識的に口づけを交わしていたのかも。しかも由香はそのとき、着ていた衣服を全部失い、つまりが真っ裸の姿でいた。

 

 一応山から下りたときは、裕志の黒衣を借りていたのだが。とにかく人にはあまりしゃべりたくない、メチャクチャに恥ずかしい記憶となっているようだ。

 

「お願いやけ! 裕志さんと口づけしたんは言うても良かっちゃけど、あたしが裸やったんは、店のみんなに言わんとってや! ちゃっちゃくちゃらに恥ずかしいっちゃけ!」

 

「ずいぶん勝手なお願いっちゃねぇ〜〜☻☻」

 

 孝治は苦笑した。でもここは由香の哀願どおり、未来亭の同僚たちには黙っておいてやろう。気が変われば、話は別になるけれど。

 

 そんな孝治の瞳に、入り口から東の方向。村の塀{へい}を乗り越えようとしている、大きな角刈りの姿が写った。

 

「あれ? あそこにおると、魚町先輩っちゃよ☞☞」

 

「えっ? ほんなこつ?」

 

 孝治に続いて、友美も気づいたようだ。確かに塀を越え、いずこかへ逃げようとしている巨大な影は現在村に居る者として、魚町先輩以外には考えられなかった。

 

 なにしろ塀は防犯用として充分な高さがあるのに、魚町はそれをやすやすと跨いでいるのだから。


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