前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記X』

第五章 結論、美奈子はやっぱり恐ろしい。

     (12)

「では、うちらはこれで行って参りますえ✈ 青森県は遠くになりますんで九州に帰れるのはずっと先になりますさかい、店長はんにはよろしゅう言っておくれでやす✌」

 

 孝治も美奈子に応じてやった。

 

「ああ、冒険申請が事後になっちまうとやけど、いつもんことやけ別ん仕事で埋め合わせすりゃええっち思うけね✐ まあ、今回はおれが帰ってから、美奈子さんの代わりに申請出しとくけ♥」

 

「よろしゅう頼むで、ネーちゃん♡☺」

 

「はああああい♡ お願いいたしましゅですうぅぅぅ♡」

 

 いつものことながら、双子なのに千秋と千夏の口調は、やっぱり対照的。千秋が小生意気そのものなのに、千夏は元気いっぱいの溌剌ぶりだった。しかも今回は、そんな彼女たちに加え、先ほどのリスも同行しているのだ。

 

 ちなみにリス――可奈は、ロバの背中にチョコンと乗っていた。これではまるで、動物園の巡業みたいだ――とは言えないだろうか。

 

 またこの顔ぶれは、千夏にとっては、大歓迎モノらしい。

 

「美奈子ちゃんとぉ千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんとぉ、それにぃロバのトラさんにぃ、リスの可奈ちゃんもぉごいっしょしてますのでぇ、とってもぉとってもぉ楽しい旅さんになりそうさんですうぅぅぅ♡」

 

「ちちちっ!」

 

 たった今リスが鳴いた理由は、たぶん可奈が『あたしはリスじゃないずらよ!』とか、文句を言ったのであろう。そんな虜囚の身である可奈を、なかば放し飼い同然に扱っている余裕の姿勢に、孝治は美奈子の過大気味な自信と尊大さを感じていた。また可奈も、完全の逃走の意思を放棄しているようだった。

 

 その美奈子がいきなり、裕志の右腕に寄り添っている由香に向かって、ひと言ささやいた。

 

「そうそう☝ 忘れとったんやけど、由香はん☛」

 

「えっ? は、はい……♋」

 

 由香の瞳が大きく開いた。心の準備も予告もなにも無いときに、急に声をかけられたためだろうか。返事も裏返り気味でいた。

 

「くれぐれも裕志はんを大事にしはってや☢ なんと言うたかて、牧山家の大切な御曹司でおますさかいやで☠」

 

「は、はい……☁」

 

 突然話を振られた由香は、なんの言葉も返せなかった。ただ瞳を大きく見開いたまま、口パク同然にうなずくだけでいた。

 

「では私どもは、必ず帰ってきますさかいに♐」

 

「ほな、また会おうな、ネーちゃんたち♪」

 

「行ってきまぁぁぁっすですうぅぅぅ♡」

 

 かくして三人と二頭の動物(可奈曰く『あたしは人間ずら!』)が、北へ向けての新たな旅立ちとなった。

 

 遠く青森の地にあると(可奈が)言う、まだ見ぬお宝を求めて(要するに人の物の横取りであるのだが)。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system