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『剣遊記Z』

第六章 華麗なる美の戦士?

     (8)

 階段踊り場に飾られている涼子の肖像画の前に、中原と孝治たちが集結した。

 

 いよいよ涼子の念願である、完成のための筆入れが、今から始まろうとしているのだ。

 

 もちろん涼子は、期待で胸がワクワクの面持ち。その横で孝治は中原に対し、すっかり形勢逆転の気持ちでいた。

 

「さ、早よさっさとこん絵ば完成させちゃってや♐」

 

 あれほど威張りの極致にいた中原を、今では背中から急かしつけているのだ。これに事情がよくわからないままで付き合っている秀正は、先ほどからしきりに頭をひねっていた。

 

「こん絵のどこが未完成ね? おれにはよう出来ちょうように見えるっちゃけど☹」

 

 また友美は別の観点から、ひとつの不安を口に出していた。

 

「こん絵ば描き直すんやったら、やっぱ涼子ん代わりにわたしがモデルになるとやろっか? でも、ヌードは絶対嫌やけね☠」

 

 これに孝治はひと言。からかい気味で付け加えてやった。

 

「こん絵は服ば着ちょうけん、そげなこつ心配せんでええっち思うっちゃけど★ おればっか脱がさんで、たまには友美もヌードになったらええんやなか♡」

 

「もう! 孝治ったら、意地悪なんやけぇ☠ ちょっと自分のほうが胸が大きいっち思うてからにぃ

 

 などと三人が、うしろでワイワイガヤガヤしている最中だった。左手でパレットを構えている中原が、用意をしてきた細めの筆の先に、ちょちょっと白色の絵の具をにじませた。

 

 それから肖像画の右端の一番隅っこに、軽くサラサラとひと筆だけを書き入れた。

 

 絵画の隅に、自分自身の名前を。やや崩れたデフォルメ調の字体であったが、なんとか『中原隆博』と読むことはできた。

 

「よっしゃ、出来上がったばい☀☀」


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