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『剣遊記Z』

第六章 華麗なる美の戦士?

     (2)

「なんか、ワクワクするっちゃねぇ♡」

 

「ええ、孝治くんがついに脱いじゃったとでしょ☆ これであたしんよかスタイル良かったら、あたしショックしちゃうばい☠」

 

「やったら登志子も描いてもらえばよかやない♪」

 

「やだぁ〜ん♡ 恥ずかしいっちゃよぉ♡」

 

「でもそんときは、お菓子ば我慢せんといけんけね☠」

 

「もう! 朋子の意地悪ぅ〜〜♡」

 

 給仕係たちが、各々好き勝手に騒ぐ中だった。新作絵画発表の舞台となっている未来亭の一階酒場は、早くも不思議な雰囲気の喧騒に包まれていた。

 

 開店前の酒場には、由香たち給仕係の面々はもちろん、遠方での宝探しを終えて帰店している専属戦士の本城清美{ほんじょう きよみ}と徳力良孝{とくりき よしたか}に加え、妻子を連れて帰ったばかりである孝治の親友――秀正の姿もあった。

 

 無論、主役である孝治もいた。

 

 しかし孝治は本心では、この場に来たくはなかった。

 

 確かに中原に了承――と言うよりも根負けをして、自分のヌードを描かせはした。だけどいざ発表の段になると、やはり人前に出るのが恥ずかしい――と言ったところか。

 

 完成した絵を世間から隠すと言う実力行使は無理であろうけど、せめて自分だけは、この際できるだけ見ないようにしたい。

 

 そんな複雑極まる心境と言ったところか。

 

 それを友美と涼子のふたりが、無理に説得。半分強引に、会場まで引っ張り出されたような格好だった。

 

『もう覚悟ば決めるっちゃよ♡ 裸なんち、毎日見られよううちに、いっちょん平気になるもんやけ♡』

 

 涼子の言い分には、説得力がまるでなし。だけど友美の言葉には、一応心を動かされた。

 

「孝治かて……今んところは『もしかして……?』なんやけど、いつかは男ん子に戻れる日があるかもしれんのやけ、やけんそんときんために、今の女ん子の姿ば絵に残しておくっちゅうのも、そげん悪かことやなかっち思うっちゃけど☀」

 

 これが励ましなのか。それとも慰めと言ったほうが良いのか。なかなか微妙なところ。しかしこれにて、孝治も自分の絵を拝見する決心を固めたわけ。

 

「……そ、そうっちゃねぇ……これかておれが生きちょう証しのひとつやけねぇ……★」

 

『良かったっちゃねぇ♡ これで孝治も死んだかて、取り憑ける場所ができたっちゃわけやね☠』

 

「しゃあしぃったい!」

 

 それだけは涼子から言われたくない孝治であった。


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