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『剣遊記Z』

第六章 華麗なる美の戦士?

     (1)

 一行は未来亭に、無事帰店した。

 

 その日からであった。すでに一週間にも渡って中原は、借りている部屋でこもりっきりになっていた。

 

 それこそ人前に姿を現わすのは、三度の食事と小用のときだけ。この間、真剣に創作に打ち込んでいるらしい様子が、端から見てもよくわかる状態――なので、誰もがとても近寄りがたい、ある種の鬼気迫る雰囲気を肌で感じていた。

 

 もちろん絵画のモデルとなった孝治など、気になる心境は他人の倍以上あった。それと同時に、芸術にハマり切っている中原の怖さも、身に沁みて思い知っていた。だからけっきょく、いつも遠巻きにして眺めているより、他に行動のしようがなかった。

 

 従ってこの一週間というもの、黒崎の頼みで徹哉を引き連れ、北九州市内のあちらこちらを案内(つまり観光)して回るのに、孝治は専念していた。

 

 そんなこんなをしているうちに、とうとう待望(?)の日の朝が訪れた。


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