前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第六章 華麗なる美の戦士?

     (11)

 返答が終わったところで、黒崎は書類の束を、徹哉に手渡した。しかしそれでも、徹哉は感情表現に乏しいまま。だが黒崎は、やはり気にする様子を見せなかった。それから書類を受け取ったついでなのか、徹哉が言われてもいないのに、返答の続きを再開させた。

 

「コレハボクノ自己満足カモシレナインダケドナ。ボクガ考察スルニ、科学ノ進歩ハ魔術文明ヨリモ、遥カニ速イトイウコトガ、ボクノ実感ナンダナ。少シ偏見ガ入ッテルカモシレナインダケド、魔術文明ハヤヤ停滞シテルンジャナイカナ、ト言ウノガ、ボクノ受ケタ感想ナンダナ」

 

 さらに徹哉は、もっと奇妙な行動に移った。それは着ている背広のボタンを外し、自分の腹を黒崎の前で晒し出したのだ。

 

 しかし、あらわとなった徹哉の腹部は、なぜか肌色をしていなかった。むしろ光沢のある銀色と表現したほうが良さそうだ。おまけに左脇腹の所には青い円形のボタンが存在し、徹哉自身がそれを右手の人差し指でポンと押した。

 

 とたんにウィィィィィィンと、金属と金属がこすれ合うような音。なんとお腹が両開きの扉のようにして、左右にカパッと開いたではないか。

 

「なるほど、おもしろいもんだがや」

 

 その剥き出しとなった内部は、まるで空き箱のような空間になっていた。これに少し興味を感じた黒崎が覗いてみると、内部はガラスのような透明の壁に四方が囲まれ、奥のほうに歯車や電線などが混み合いつつも各部で繋がっており、赤や青のランプ{電球}が明滅を繰り返していた。

 

 それから徹哉は、ごく当たり前のような仕草で、書類を自分の腹の中に収めた。このあともう一度青いボタンを押すと、お腹が元通りに音を発してパタンと閉じた。腹部が物を保管する、ロッカーのようになっているのだ。

 

 あとはこれで、背広を着直してボタンをはめれば、徹哉は完全にふつうの少年だった。

 

 この一連の仕草を見ていた黒崎が、感嘆のため息を吐いた。

 

「さすがだがや。確か君の世界での君の呼称は、アンドロイド{人造人間}とか言ったよなぁ。本当に科学技術の進歩には、いつもながら大いに感服するがや。しかしこれも、勝美君にも見せるわけにはいかにゃーからなぁ。御庭番である峰丸のように」

 

「オ誉メニ授カッテ光栄ナンダナ」

 

 アンドロイド――夜越徹哉が、黒崎に向けて深々と頭を下げながら、同じセリフを繰り返す。

 

 外見だけでは常人と、まったく区別のつかない、その仕草のままで。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system