『剣遊記]』 第四章 炸裂! カモシカ拳! (9) 「あれ……なんじゃと思うけー?」
「……わかりまへぇん……?」
無論兵たちに、少女がなにを考えているかなど、わかるはずもないだろう。しかしその真意はわからなくとも、少女の目的は一目瞭然だった。なぜなら少女は明らかにまっすぐ、森から古城の門へと近づいてきているからだ。
その理由も、まったく見当がつかなかった。だがある意味、欲求不満を強制させられている四人の兵にとって少女の唐突なご登場は、性欲発散の絶好のチャンスとも言えた。
「どげーでもええが、あの娘っこ……やっちゃいませんけー? あれなら今度の件と関係ねえ女じゃけぇ、司教に文句言われる筋合いはありめせんけんのー☆」
「そうじゃのう☀」
堅物だったはずの兄貴分も、弟分三人と同様。けっきょく同じ有混事の子飼い――つまり同じ穴のムジナ。つまりがそろいもそろって、腐れ外道の集まり。ここは膳は急ぐもんじゃけーとばかりに一斉に門から駆け出し、城に近づく少女を簡単に、四人掛かりで取り囲んだ。
「お嬢さん、こげーな山ん中ん城に、ちーと用かのう?」
兄貴分は口にニヘラ笑いを浮かべながら、少女の頭から足のつま先までを舐めて見た。しかも取り囲んでみると、少女の服装はどこかの酒場で見るような、給仕係専用の制服(色は緑)でいた。おまけにしっかりとエプロンも前にかけており、このような山の中を散歩でするような格好では、絶対に有り得ない姿であった。
もちろん兵たちも、この点を不思議に思った。だが今は、それよりも優先すべき行動があった。
「道に迷ったんじゃったら、ここに泊まってもええけんのー♡ おれたちが優しゅうしてやるけー♡」
「けへへへへっ♡」
もはやいやらしい本心を隠そうともせず、ニヤニヤとだらしなく、涎{よだれ}を垂れ流すばかり。これではいくら私兵の集まりとはいえ、そんじょそこらの山賊と、まったく変わりはなし。
ところが少女はこのような野獣たちの中にいて、恐怖心などこれまたまったく無のごとし。逆に小声で尋ねかけてきた。
「あのぉ……♠」
実に聞き取りにくい、ごく小さな声だった。
「なんじゃ? なんか言いよんのけー?」
兄貴分が右耳を前に出し、少女に訊き返した。
少女は続けた。城を右手で指差しながらで。
「あっこに……美香の友達が……いると……思う……☞」
「はあ?」
どうにか言っている意味はわかるのだが、それにしても――まさか――であった。
「おめえ、中におる連中と、なんか関係あるんかのう?」
再度尋ね返した兄貴分に、給仕係スタイルの少女は、コックリとうなずいた。
「はい……美香と可奈はこんねんまくお友達☺ やっぱりここにいたかいなぁ♡」
「あんやとぉ! てめえっ!」
少女の真意を兄貴分がようやく悟ったときだった。その返礼は、突然少女が跳躍してのビュン! ガツン! といった真空の飛び膝蹴り! (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |