『剣遊記]』 第四章 炸裂! カモシカ拳! (10) 「ぐでがぁーーっ!」
少女――美香の右腱脚をまともに顔面で受け、兄貴分の兵が真後ろへと大転倒。そのままピクリとも動かなくなった。それも完全に、白目を剥いた状態で。
「な、なんじゃあ! こん女子{おなご}はぁ!!」
当然残された三人の兵たちは、美香が只者ではなかったことを、可及的速やかに認識した。すぐに腰のベルトから、備えている中型剣を引き抜こうとする。
だが、今一歩遅かった。
「うぐあっ!」
「おごあーーっ!」
「ふぎゃがあっ!」
バキッ! ボゴンッ! バスッ――と、美香の瞬発力は、それなりに鍛えているはずの兵たちの目にも、まったく止まらぬ早業であったのだ。
まさに常人の限界を超えた驚異のジャンプ力で、三人の野郎どもを翻弄。飛び蹴りの技で兄貴分と同じように、彼らをたちまち地面の上へと撃沈してしまった。
だが最後に蹴られたひとりは、下っ腹に右足による一撃を決められたとはいえ、まだまだ立ち上がれる余力を残していた。
「ごほっ! こん小娘ぇ〜〜♨ い、いてえおめえは何モンなんじゃあーーっ!」
腹部をきつく強打され、激しく咳き込みながらであった。それでも中型剣を振り上げ、美香に向かって斬りつけようとした。しかし美香は、こいつ片付けるんは簡単ずら――とばかり。再び跳躍の構えを取った。ところが最後の一閃が始まる直前だった。
「おっ! おわああああああっ!」
兵の持つ剣がいきなり、空中への勝手な浮上を始めたではないか。剣は彼の手から強い力で引き離され、遥か宙へと浮かび上がっていった。
「お、おれのけぇーーん!」
頭上で舞う剣にあっさり気を取られた兵士など、もはや小指の力ほどの脅威もなし。美香はここで、軽くジャンプ! バビュン ボガッと、今度は後ろ回し蹴りを、そいつの後頭部にお見舞い。脳震蕩により、兵はあえなく失神した。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |