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『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (8)

 城の前門では四人の兵たちが退屈な監視業務を、それなりに真面目な態度で遂行中――とはいえ、冗談抜きで仕事は単調そのもの。なんの刺激もない怠惰な時間を、彼らは無駄な馬鹿話で過ごすしかなかった。

 

「なあ、兄貴なあ……☈」

 

「あんじゃあ?」

 

 アクビを噛み殺しながらで話しかけてくる弟分に、年配の兵が、つまらなそうな顔を向けた。それでも弟分は兄貴の機嫌に関係なしで、勝手に話を進めた。

 

「司教んやつも、でーれーひでえもんじゃのう☠ 男もおるけど、こん城の中じゃあ女が三人もおるけんのー☠ これで手ぇ出すのは許さんなんてちゃーけりゃがって、おれたち生殺しにされとーようなもんじゃのう☠」

 

 彼らが言う『女が三人』とは、可奈と友美と――それから孝治である。もちろん彼らは孝治が昔は男だったなどとは、夢にも考えるはずがない。

 

「わしもそれは考えたけー♠」

 

 四人の中では一番の目上なのだが、兄貴分の頭の中も、弟分とそう変わりはしなかった。しかし、自分の立場はわきまえていた。

 

「じゃがのう、司教は女どもを行政長官の皇庁室への貢ぎモンに使うっち言うとるけんのー♣ やけー絶対に傷モンにすんなってよ♨ ったく、でーれー冗談じゃねえが☠ 目の前にニンジンぶら提げられた馬ん気持ちが、わやくそわかるっちゅうもんじゃのう☠」

 

「な、なあ♡ 黙っとったら、わしらが好きにやってもわからねえじゃろう? あの女どもにゃあ、厳重に口止めしとけばええんじゃし♡」

 

 別の弟分がこれまた性質の悪い誘いをほざくが、兄貴分はこれでけっこう、堅物な性格でもあった。

 

「いんや♦ こっそりやっても、いずれはバレるけのー☠ あの司教を怒らせたら、あとが怖えからのう☠」

 

「じゃあやっぱり、女は貢ぎモンですけー☁ そんじゃ男ふたりはどげーすっとですかい?」

 

「男どもは奴隷にでもして、どっか海外にでも売り飛ばす気らしーけー♐ わしもちょびっと付き合うて知ったんじゃが、有混事って野郎は、昔っから抜け目のようねえやつだったらしいけのー……おっ?」

 

 三人目の弟分の愚問に、兄貴分が律儀に答えたときだった。彼の目に森の小道の脇からひょこんと出てくる、ひとりの少女の姿が写った。

 

「おい……あれ見てみい?」

 

「へぇ……見えてますけー……☞」

 

 兄貴から教えられるまでもなく、三人の弟分も当然ながら、少女の存在に気づいていた。


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