前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (7)

 孝治たち五人は、山中に放棄されている古城の地下牢に、縄で縛られたままで幽閉された。これはさすがに、市内で人を監禁するのは困難と考えての策であろう。

 

 しかし律子と祭子の母娘だけは、有混事が本拠としている教会支部に閉じ込められたまま。それがいったいなにを意味することなのか。今の段階ではわからなかった。

 

 だがいずれにしても、このままで良いはずはないだろう。

 

 妻子と離れ離れにされた格好である夫の秀正は、それが心配で心配でたまらない様子。

 

「お、おい! ほんなこつこれでよかっちゃね! 律子と祭子はほんなこつどげんなるっとやぁ!」

 

 先ほどからずっと、縛られたままの格好で、可奈相手に怒鳴り続けていた。

 

 そんな孝治たち一行を監視している有混事お抱えの私兵は、全部でたったの四人。古い割には堅固な造りである城の構造に安心しているのだろうか。これだけの人数を配置しただけで、有混事は『こんで良か♡』としているかのようだった。

 

「おれもそげん思うっちゃよ☠ ほんなこつこれからどげんするつもりや? ほんなこつあのカモシカ娘は大丈夫なんけ?」

 

 孝治も縄で上半身を頑丈に縛られたまま、にらむ気持ちで可奈に問いただした。

 

そう。ここにはあのワーシーロー――美香だけが不在中なのだ。それも訳ありで。

 

「あんまししゃべるんやなか♠ 体力ば無駄に消耗するだけばい♐」

 

 ここでやはり囚われの荒生田が、まるで日頃のいい加減戦士の異名を返上するかのごとく、ドスを利かせた声音で孝治と秀正――ふたりの後輩を鎮めさせてくれた。

 

「うわっち!」

 

「はい……先輩の言うとおりなんですけどぉ……☁」

 

「ええから黙っちょれ!」

 

 ここは一応、一番の年長者としての貫禄であろうか。その自己の貫禄を知ってか知らずか、やはり荒生田が偉そうな口振りで言ってくれた。

 

「可奈には可奈ん考えあってのことっちゃろ☆ やきー今さらジタバタしたってしょんなか★」

 

(相変わらず女ん人には疑問ば抱かん人っちゃねぇ〜〜☁)

 

 孝治はやはり、声には出さないよう、そっと愚痴をこぼした。

 

 それはとにかく、地下牢に使われている部屋はけっこう広く、囚われの全員が、同じ場所で監禁されていた。

 

 ただし出入り口はひとつだけ。それも当然、外側から鍵がかけられていた。

 

 ここでの孝治の心配は、全員が同じ部屋に収容されているにも関わらず、事態の改善策が、一向に見えてこない状況にあった。

 

「可奈さんも友美も、有混事野郎の魔術で力ば封じられちょるんばい♨ それで、どげんやってこっから逃げればよかっちゃね♨」

 

「まあ、落ち着くずら♩」

 

 この期に及んでもなお、可奈はいまだに冷静な姿勢を崩さなかった。

 

「確かにあたしの魔力は封じられちょるんずら★ でも、そんくらいは計算の内どう♪ むしろうれしい誤算があって、あたしは喜んどるずらよ♫♬」

 

「うれしい誤算? なんねそりゃ?」

 

 繰り返すが、一番の年長者である荒生田がここで初めて、不審げに可奈を見つめていた。しかしこれにも、可奈はシレッとしたものだった。

 

「だってじゃあ、こうしておいだれたちとおんなじ場所にあたしさ入れてくれたんだにぃ♡ これが別々に入れられたら、やぶせったいくれえ面倒だにぃ〜って、実は思うとったずら☠ でもこんなら美香も、まっつぐやりやすうなるってもんずらぁ♡」

 

「ますますなん言いよんのか、いっちょもわからんちゃねぇ?」

 

 可奈にいったいどのような自信と楽天の源があるのか。もはや孝治は首を右に傾けるより、他にできることがなかった。

 

さらにもうひとつ、あの美香ちゃんにこれまたいったい、どげな期待ばかければ良かっちゃねぇ――とも。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system