前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (4)

「あたしもこんねんまく、ケンカに飽きてきたずらぁ☠」

 

 通算八回目の襲撃を撃退したあと、可奈がうんざり気味の顔をして、孝治たち相手に愚痴をつぶやいた。

 

 親友の美香を友美や律子たちといっしょに後方へと退かせ、女性陣では孝治(?)と並んで、山賊退治に魔術の腕を奮った可奈ではあった。しかし果ての見えない戦闘の連続で、早くもやる気を喪失している感がありありでもあった。

 

「何回連中を火炎弾でぶちゃっても、またあとからあとから湧いて出るんだにぃ☂ いったいいつまで、こんなおめってえ戦いさ続けてりゃええっか? さすがのあたしもてきねえずらぁ☃」

 

 これに荒生田も、『我が意を得たり✌』とばかりに付和雷同した。

 

「そうばい♥ 彼女ん言うとおり、こげな連中に気ぃつかいながら戦いよったら、こっちが疲労困憊で参っちまうっちゃぞ♨ そげんなりゃそれこそ、やつらの思うツボっちゃけな!」

 

 実際は、襲う側の粗利蚊にそこまでの思惑など、実はなかったのだ。ただ単に、闇雲で孝治たちに山賊どもを差し向けているだけ。しかし現実に戦っている者としては、確かにその恐れが皆無とは言えなかった。

 

「じゃ、じゃあ、いったいどげんすりゃええとですか?」

 

 今の事態に対する打開策が浮かばない孝治は、無礼を承知の口調で、先輩――荒生田に尋ね返した。ところがこの問いには荒生田ではなく、可奈が先に答えてくれた。

 

「簡単ずら☀ あたしに考えがあるだにぃ☀」

 

「考え? 可奈さんにですかぁ?」

 

 まさに『瓢箪{ひょうたん}から駒{こま}』のごとく。可奈の自信たっぷりなセリフに、孝治は思わず両方の耳を傾けた。

 

「ふぅ〜ん♡ それはおれも聞いてみたかっちゃねぇ♡」

 

 秀正までが乗ってくる姿勢を見せると、黒衣の女魔術師は、いかにもで鼻を高くさせていた。

 

「うふっ♡ それはずらね……☻」

 

(魔術師っち、なしてこげんみんな、性格が高飛車で共通しちょんやろっかねぇ?)

 

 これも孝治は口には出さないようにした。その孝治の瞳の前で、可奈が未来亭に在籍をして初めて――とでも称すべき妖艶な微笑みを、このとき全員に向けて披露していた。ただし、優雅な美女の微笑などではなく、良からぬ謀りごとを企むような、悪女の風格であったのだが。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system