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『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (3)

 孝治たちの戦闘場面を、大木の陰からこっそりと眺めている男が約ひとり。

 

「な、なんちゅうやつらやぁ……☠」

 

 朝から何度も金で雇った山賊どもをけしかけ、一行に襲撃をかけさせている粗利蚊であった。

 

しかしそれが通算五回も呆気なく蹴散らされ、正直すっかり舌を巻いていた。

 

 もちろん山賊自体に、替わりはいくらでもあった。ここ中国山地はそんな連中の溜まり場であるし、酒代さえチラつかせれば、それこそ馬にニンジンのごとく、我も我もと話に乗ってくれるのだ。

 

 だが、そうして集めた山賊どもが、物凄く簡単に退けられてばかりの始末。これではいったい、司教になんと言い訳をすれば良いものやら。

 

 そんな所へ――であった。

 

「兄貴ぃ♡ 新しい兵隊ば連れて来やしたぁ♡」

 

 粗利蚊の弟分――やはり九州からいっしょに来ている出人{でひと}が、また新顔の山賊集団を引き連れて現われた。だけどもはや、彼らに期待できる要素はなにもなかった。

 

「ああ、適当にやっときんしゃい☠」

 

 半分以上投げ槍的な気分で、粗利蚊は彼らを前線に投入させた。

 

(もし律子が津山まで来ちまったら……おれだけとっとと逃げよっかねぇ……☠)

 

 粗利蚊の頭の中は、今やおのれの保身だけとなっていた。


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