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『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (12)

 合い鍵でガチャッと、地下牢の扉が簡単に開かれた。

 

「美香っ☀ おめさんならだいじょうだって、あたしは信じとったずら♡」

 

 可奈が親友の鍵奪取成功を、心の底から喜んでいる感じ。縛られているままの格好で、器用にもピョコンと立ち上がった。また美香も監禁されていた可奈に向け、ニッコリと微笑みを浮かべていた。この一方で孝治は美香が、ひとりで四人もの監視兵を倒して地下まで来たことに、大いに驚きを感じ中。やはり縛られて、床に座ったままで。

 

「へぇ〜〜、こん子、やるときはやるっちゃねぇ〜〜♡ さすがは信州の山国育ちばい♡」

 

 そのついで、命の恩人の服装にも、これまた大きな疑問を抱いていた。

 

「なして彼女……未来亭の制服ば着とうとや?」

 

「ごしたい(長野弁で『しんどい』)ことこく人ずらねぇ☠」

 

 これに可奈が、いかにも面倒臭そうに説明してくれた。

 

「まぁず、美香が長野から九州まで、ずっとカモシカんまんまで来たのは知っとるだにぃ♨ そんで美香さ服さ持ってこなかったもんずらけ、店で支給してくれた制服しか着るのがねえずらよ☠」

 

「すると……美香ちゃんがカモシカんときに首に巻いちょった風呂敷に、制服一式が入っちょったわけ?」

 

「さけぇ、そうゆうことずら♦」

 

 可奈の口調は、やはりシレッとしたもの。だけど話がここまで到れば、ものはついでである。孝治はさらに、美香が初めて未来亭に現われたときの奇妙な行動まで、恐る恐るながら可奈に訊いてみた。

 

「じゃ、じゃあ……九州に来るまでんときは、美香ちゃんの風呂敷にはなんが入っとったと?」

 

「そんなおめってえこともねえずらよ♧ ただあたしへの信州土産だったんだにぃ♪」

 

「あんねぇ……☠」

 

 孝治絶句。美香はカモシカに変身していたとは言え、日本列島のおよそ半分以上の距離を、完全なる裸で縦断してきたっちゃねぇ――と、言いかけたが、やめにした。なぜならここで美香が愛くるしい瞳と笑顔で孝治を急に見つめたので、さらに問い詰める意欲が、急激に削がれてしまったからだ。

 

「うわっち♋」


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