『剣遊記]』 第四章 炸裂! カモシカ拳! (1) 「ゆおおーーっしぃーーっ!」
「ぐげぼっ!」
荒生田が打ち下ろした鞘ごとの中型剣が、斧で斬りかかった山賊の脳天を、ボクッと見事に一撃した。鞘が無ければその男は、頭のてっぺんから背中を通ってお尻に到るまで、恐らく真っ二つに両断をされたはずだった。
「安心せい♡ これは峰打ちっちゃけ♡」
平然とそのように嘯{うそぶ}く黒サングラスの戦士――であるが、それを言うなら、ふつうは相手の両手両足だけにダメージを与えれば良いだけの話。人の最大の急所である脳味噌を狙い撃ちしておいて、そんな戯言{ざれごと}が通るはずもないだろう。
しかし荒生田の場合は通るのだ。
「先輩……そいつばもう、話ば聞いてませんちゃよ✄」
いっしょに山賊と戦っている孝治も、その点を指摘しないわけにはいかなかった。改めて見ればその山賊は、おでこに大きなたんこぶをこしらえ、口から泡を噴いて、すでに昏倒の世界の中にいた。
「これじゃほんなこつ、過失致死寸前の犯罪ですっちゃよ☂ やけん先輩は世間からバーサーカー{狂戦士}なんち言われたりするんですよねぇ☠」
「そうけ? バーサーカーかて、立派な誉め言葉っち思うっちゃけどねぇ☀」
後輩である孝治からの嫌味など、相変わらずでちっとも動じようとはしない荒生田であった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |