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『剣遊記番外編V』

第一章  魔術師とカモシカ少女。

     (4)

「まあ、ええずら♥ きょうはせっぺせっぺ(長野弁で『一生懸命』)やって、ええ収穫もあったことだにぃ♡」

 

 苦虫を噛んでいた気持ちから一転。可奈は文句たらたらの顔から、妖しい笑顔へと、自分を変貌させた。それから魔術師専用黒衣の左の袖をごそごそとまさぐり、そこからなにかをつまみ出した。

 

「?」

 

 カモシカの姿では言葉がしゃべれない(当たり前)美香が、ジッと可奈を見つめていた。その前で袖の中から取り出した物――それほど大きなシロモノではないが、金と宝石で飾られた、それなりに高価そうな首飾りであった。

 

 キョトンとしたつぶらな瞳で、カモシカがその首飾りを見つめていた。黒衣の女魔術師は、自慢げで鼻を高くした。

 

「きょう除霊さした家って、貴族んくせにへぼくてたるくさいから参っちゃったずらぁ☠ でもそん代わり、家ん中でこれが一番目に付いたかや、小遣い代わりにちっとべぇもらってきたずらぁ♥」

 

 なんのことはなかった。可奈は屋敷の除霊を行なったついで、金目の物をひとつ、失敬もしていたわけ。

 

 もっとも可奈に悪気はあっても、後ろ髪を引かれる思いは、まったくなかった。それもそのはず、あまり大っぴらには言えないが、これこそ一時は山賊団の首領も務めた、可奈の悪女っぷりでもあるのだから(少々やり方がセコいけど☺)。


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