『剣遊記\』 第二章 渚の駆け落ち物語。 (8) その日の夜、桂は上陸をして、永二郎を訪問した。
これまた前述をしてあるが、人魚は下半身の形状を変えて、人間の二本足を獲得する特殊能力がある。ただし、そのときはもちろん、下着を着用。決して裸で街を歩くような、はしたない真似は行なわない。
人魚にも当然、『公然ワイセツ罪』が適用されるのだから。
それはまあ置いといて、先に女将に尋ねたところ、永二郎はいつも裏の納屋で寝泊まりをしているとのことだった。
「それがエラい、いひゅうもん(熊本弁で『変わった人』)でねぇ、ひとりにならんと眠れん……なんち言うとよ⛹」
「ふぅ〜ん、がいにぃ変やなぁ⛅」
女将の言葉にうなずく桂の右手には、お礼のつもりで真鯛の尾頭付き。また左手には、二枚貝(シャコ貝のようである)の貝殻に詰めた塗り薬が握られていた。この薬は人魚の一族に代々製造法が伝わる、もしものときのケガの特効薬である。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |