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『剣遊記\』

第二章 渚の駆け落ち物語。

     (5)

 そんな屈辱感の思いいっぱいでいる桂を好奇の目で眺め、男たちはさらに嵩{かさ}にかかった態度を増長させた。

 

「ようよう♡ そげな目でオレたちば見らんで、良かったらオレたちと遊ばんね♡」

 

「人魚かて陸に上がりゃあふつうの女ったい☛ やけんそん点はなんも問題なかけねぇ♡」

 

 彼らは桂のくやし涙を見て(見せたくなかったのに見られた)、逆に欲情をそそられたようだ。むしろ自分たちからバシャバシャと海に押し入り、波打ち際にいる桂を捕まえようと襲いかかってきた。

 

「きゃっ! いやあ!」

 

 連中はただのチンピラではなかった。スキがあれば徒党を組んで女性を襲う、強姦集団でもあったのだ。

 

「こっち来んでえ!」

 

 桂は慌てて、沖へ向かって逃げようとした。こうなったらもう、生活費はあきらめるしかなかった。なんと言っても野獣どもの餌食にされるよりは、きょうのご飯を断念したほうが、よほどマシであるのだから。

 

「おっと! おめくなや!」

 

 人魚が本気になれば、人間の遊泳力など高がしれていた。その点を知ってか。男たちは先手を打って、沖側へと先回り。桂の逃げ道を妨げる行動にでた。

 

「そこどいてつかーさい!」

 

 桂が目一杯に啖呵を切ったところで、男たちはニヤけているばかり。

 

「どかんばい☠」

 

 四人がかりで立ちふさがり、桂の沖への退路を断ってしまう。ここで砂浜に残っている金髪に染めた男が、命令口調で四人に言った。

 

「そん女ば逃がすんじゃなかぞぉ! 人魚娘の味がどげなもんか、いっぺん試してみたかったんやからなぁ!」

 

 その振る舞いと横柄さから見て、こいつが五人の中では親分格のようだ。だが、桂の知っている地元の顔ではない。大方、都会から海を荒らしに来たチンピラなのであろう。

 

 しかし子分たちの返事で、桂は驚きで瞳を丸くした。

 

「へい、若旦那!」

 

「わかってやすって♡」

 

「えっ?」

 

 理由は親分かと思ったら、それよりは上品な『若旦那』呼ばわりであったから。だからと言って、彼らがチンピラであることに変わりはなかった。

 

 四人は若旦那とやらに忠実に従い、総出で桂を取り囲んだ。

 

「うへへへへっ♡」

 

「や、やめてえ!」

 

 その結果であろうか、連中は若旦那に従い過ぎて、それ以上は周りに気が向いていないようだった。

 

 若旦那の背後から、色黒の青年が近づいて来ていても。

 

「えぇっ! たっくるさりんどぉ!{おい、こら! ぶち殺すぞ!}」

 

「なんや?」

 

 いきなりうしろから声をかけられ、これに若旦那が、馬鹿正直にも振り返った。


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