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『剣遊記\』

第二章 渚の駆け落ち物語。

     (11)

 そのような恐ろしい謀議が行なわれていようなどとは、もちろん知る由もなし。今やすっかり気の合う者同士となっている桂と永二郎の話題は、それぞれの生まれ故郷に及んでいた。

 

「そう、やーは四国の宇和島の生まれなのぉ⛱」

 

「そうなんよ✌ 宇和島もここ天草みたいに、がいに温かくて綺麗な海ぞな☀ ほうじゃけんあたしの両親は、そこで真珠を採って暮らしてるんよ⛹」

 

「やしが、どうして君だけ九州に? それも四国とはしゃに反対側の天草まで来たんだばぁ?」

 

「それは……ちょっとした冒険心やが✈ あたしって四人兄弟の末っ子やったから、物心ついたころから、大きくなったらどっかよその土地……っていうか海に行くつもりやったんぞな⛴ それよりさぁ♐」

 

 質問に少し詰まりながらもすなおに答える桂の眼差しは、このとき興味深げに、永二郎を真正面から見つめていた。

 

「おばちゃんに聞いたんやけど、永二郎さんって沖縄出身なんでしょ☀ さっきからすっごい沖縄弁でしゃべってるし、どうしてそっちこそ九州まで来たんぞなもしぃ?」

 

「……お、おれは……☁」

 

 話が自分に振られると、ここでなぜか、永二郎は口ごもった。だけど桂の瞳――それも自分をまっすぐに見つめる目線に、どうやら押され負けをしたらしい。一度、永二郎は遠くを見つめる目になって格子の窓から夜空を眺め、それから静かな口調で、桂に答えた。

 

「おれもたぶん……やーと同じ……と思うんさー☞ おれにはにーにーやねーねーはおらんけど、やっぱり自分ひとりの力でどれだけばんない生きられるか⛍ 試してみたくて……そんなわけだわけさー✍」

 

 とたんに桂の瞳が輝きを増した。

 

「ほんと? それじゃ、あたしとおんなじぞな♡ でも、ご両親はどうしてるの?」

 

 続く桂の質問の返答には、永二郎はやや淋しげな感じで応じてくれた。

 

「それがわからんさー✊ お袋はおれがわらばー(沖縄弁で『子供』)んときに死んだし、親父は今ごろ、世界のどこにいるやら……少なくとも島ないちゃーじゃないから……☎」

 

「なんだかいなげなお父さんぞなぁ♐ それじゃ世界を旅して周ってるんやがぁ✈」

 

「まあ……そういうどぅまんぎるな話になるのかなぁー⛵ おれとおんなじライカンスロープらしいから……⛹」

 

 永二郎はふっと苦笑を浮かべた。そんな豪快かつ――あるいは日本一、いや世界一の無責任男とも言えそうな父の話に瞳を丸めつつ、桂は藁の上で、永二郎の体に寄りかかった。

 

 灯りはそれこそ、壁の高い所にある、格子の窓から差し込む月の光だけ。聞こえる音は、海岸から届く波の繰り返し――のはずだった。

 

「誰か来るぞな!」

 

 ほんのわずかな外の気配を、桂は敏感に、さらにとっさで反応。扉のほうに顔を向けた。

 

「ほんとだ! でーじなとん(沖縄弁で『大変なことだ』)!」

 

 永二郎もすぐに、藁の上から身を起こした。

 

「女将さんの足音じゃない! いっぺー来ようけど、海の家の誰とも違うっさー!」


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