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『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (9)

「ど、どげんしたと!」

 

 ド派手な破壊音が耳に入ったのだろう。友美がうしろに涼子を連れて、孝治たちのいる男湯に、バタバタと駆け込んできた。

 

 もちろん涼子は見えない自分をいいことに、裕志と徹哉がいても、真っ裸スタイルのまま。これも永遠のパターンなので無視をして、友美はきちんと白い浴衣姿になっていた。それでも一応砂風呂の最中だったであろうから、全身砂まみれ。さらに浴衣の下にはなにも着ていない様子なのが、なんとなくわかるような状況でもあった。

 

「きゃっ! 孝治っ!」

 

「うわっち!」

 

 男湯の小屋に駆け込んだ友美が、慌てて両手で両目をふさいだ。孝治も同時に、自分の裸の胸と下の部分を、それぞれ右手と左手で急いで隠し直した。

 

「わわっ!」

 

 裕志も同じくして、自分の股間を改めて両手で押さえて隠した(?)。ここでなにも動じている様子のない者は、頭の中がさっぱりわからない、ポーカーフェイス😑の徹哉のみであった。

 

『なんね、こん状況って?』

 

 同じ全裸でありながら、自分自身はまるで隠す気のない涼子が、男湯内の惨状を目の当たりにしてささやいた。

 

『孝治も裕志くんも、なしてすっぽんぽんになっとうと? 砂風呂って別に、裸にならんでもよかとにねぇ☻ まあ一応裸は裸なんやけど、友美ちゃんみたいに裸ん上からこげな浴衣ば着るんがふつうなんやけね☞』

 

「うわっち? それってどげんこと?」

 

 孝治は思わずで、瞳を真ん丸にした。これは孝治にとって、本当に初耳の話であったから。

 

「涼子ったらぁ! わたしが裸んことまで言わんでもよかでしょうに♋」

 

 話を振られた友美の顔が、急激に赤味を増した。しかしそれはそれとして、裕志は自分の裸を女の子に見られたショックのためだろうか。砂の上にしゃがみ込んで、大声でわめくばかりの無様な状況だった。

 

「わわわぁーーっ! 友美ちゃん見らんでえーーっ!」

 

「あっ! ごめんなさい!」

 

 友美も今になって気がついたかのごとく、孝治と裕志にクルリと背中を向けた。このおかげで、孝治と友美の不審な行動(内緒の幽霊である涼子と話した)が、裕志に気づかれないで済んだわけ。ついでに徹哉は、これまた表情に、なんの変化も起こらなかった。

 

 こいつは本当に、いったいなにを考えているのやら。


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