『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (8) さらにワンパターンである。そのとき突然だった。
「ゆおーーっし! うわぁーーっはっはっはっはっ!」
「うわっちぃーーっ!」
砂の中からドシャアーーッと、徹哉とは別の怪人が、いつもの定番で予告も脈絡もなしに出現した。
その怪人の頭髪は中途半端なリーゼントスタイルであり、顔には黒いサングラス😎をかけていた。
もはや野暮も承知だが、孝治は悲鳴を上げた。
「うわっちぃーーっ! うわっち! うわっち! 荒生田先ぱぁーーい!」
言うまでもなく砂の中から突如現われた大怪人は、孝治にとっての史上最大の危険人物――荒生田和志その人だった。
「ウワ、コレハびっくりナンダナ」
徹哉の驚きの割には感情表現の薄いセリフで、孝治は重大な事実に気がついた。
「先輩っ! 徹哉よか早よう、砂ん中に埋まって待っとったとですかぁ!」
この異常極まる状態も、もはや確認するまでもなし。体中砂まみれとなっている荒生田が、頭のリーゼントをブルブルと震わせながらで、大声での妄言をほざきまくってくれた。
「孝治っ! おまえがこん砂風呂に入るっちゅう情報ば耳に入れてから、オレはずっとここで待っとったんやけね☻ その甲斐ほんなこつあったっちゅうもんばぁーーい☀♡」
「うわっちぃーーっ! 絶対になんも言うとらんかったとにぃーーっ☠☢ ……うわっち!」
荒生田の想像を超えた変態度数と地獄耳同様、孝治は今になって、さらなる重要な事実にも気がついた。自分が今、超史上最大級に無防備な状態にいる現状を。すぐに両手で胸と下の部分を隠したが、当然手遅れ。それでも先輩への反論と抵抗は、絶対に負けない――つもりでいた。そこで孝治は、裕志のほうに顔を向けた。両手が使用中なので、アゴを差し向けるような感じ。
「裸やったらここに裕志かておるでしょうがっ! 目的はなんも、おればっかでなくてよかでしょうにぃ!」
「ええっ! な、なしてぼくがぁ!?」
孝治と同じくマッパ状態でいる裕志が、両目をパチクリさせて叫んだ。こいつの場合、現在両手で股間のイチブツを隠している姿のまま。無論荒生田は、このような世にも情けない有様になっている後輩魔術師など、初めっから眼中にはないようだ。
「てめえはそこばドカんかい!」
「わわぁーーっ!」
荒生田は裸の後輩を、右にドカンと左足で蹴り飛ばした。そのあと早速、孝治ひと筋の猛突進を決行した。
「孝治ぃーーっ! オレのブ熱い情熱のキッス(^ε^)-☆Chu!!ば受けんしゃーーい!」
「ええ加減にせんねえ! こん超弩級変態がぁーーっ!」
孝治は真正面から飛びかかってきた荒生田に、これまた真正面からの飛び蹴りをガツーーンと喰らわした。
ほとんどこれは○イダーキッ○の世界。
「あひょええええええええええっ!」
もはや永遠に続く愚行の繰り返しなのか。それともネタ切れという、小説としての末期的症状なのか。飛び蹴りを顔面にもろお見舞いされた荒生田が、これまたのこれまたでいつもの恒例。頭からドカチンと、うしろの木の壁をぶち破り、小屋から外の砂浜まで飛んでいった。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |